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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2014年2月16日日曜日

映画「海の上のピアニスト」を観ました。

2月の始め、「13ヶ月太平洋を漂流した男」のニュースで見ました。メキシコの漁師が一昨年12月に漁に出た直後にボートの故障で漂流を余儀なくされ、それでも13ヶ月生き延びて、今年の始めにマーシャル諸島のとある珊瑚礁に流れ着き救助されたというのです。
2013年に公開された、アメリカ映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」を真に地でいく話です。しかし救助された漁師の姿が過酷な遭難からは想像できないほどに色白く、またふくよかであったために、漂流は偽りでは?との疑念の声も聞かれます。

摩訶不思議な話、神秘的な話にはもともと裏付けなどありません。ただ信じるか疑うか、それだけです。ですが、万人が信じるためには何かしらの事実が必要です。今回の漂流の場合、公開された漁師の写真を見る限り疑念が浮かぶのもうなずけました。

ですが、とても素敵な事実、ある存在によって摩訶不思議な物語が、豊潤なファンタジーへと変化することもあります。
先日テレビで観た映画が、真にそうでした。
海の上のピアニスト(英語表記 The Legend of 1900) 1998年イタリア映画)です。

あらすじです。

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一人の薄汚れ年老いたトランペット吹きが、唯一の財産であるトランペットをお金に換えるために楽器店に来ました。トランペット吹きは、20ドルで売り払ったトランペットを、最後に一度だけ吹かせてくれる様店主に頼み、題名のない、でもとてもロマンチックな曲を奏でます。その曲を聴いた店主は、やおら一枚のレコードを取り出して蓄音機に掛けました。スピーカーから美しいピアノの旋律が流れてきました。それはトランペット吹きが奏でた曲と同じ曲でした。
トランペット吹きに店主が尋ねます。
「あなたはこの曲をしっているのですね。誰が作った曲ですか?そして誰が演奏しているのですか?」
トランペット吹きが、そのレコードはどこで手に入れたのか?と尋ねると、店主は
「明日、廃船で海に沈められる船から払い下げられた調度品の中にあったピアノを買った。そのピアノの中に隠されていた。割れていたが貼り付け修復したのだ。」と話します。
店主が示した先にはとても思い出深いピアノがありました。そしてトランペット吹きは、彼の中で伝説となったあるピアニストの物語を語り始めました。

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1900年、ヨーロッパからの移民を乗せた豪華客船ヴィクトリア号がニューヨークに着きました。その時、乗客が下船した一等乗客の社交室にあるピアノの上に、一人の赤ん坊が置き去りされているのを船員が見つけました。赤ん坊を見つけた船員は、移民局に届けず、赤ん坊を船の中で育てる事にしました。そして船員は、1900年に生まれた赤ん坊だからと、NINETEEN-HUNDRED(以下、1900)と名付けます。
1900には記録が何一つありません。国籍も戸籍も誕生日さえありません。ですが船の中で、船員達に愛されて1900はすくすく成長しました。

1900は、8才になったある日、入場を固く禁じられた場所に進入しました。そこは貴族やお金持ちが着飾り過ごす一等乗客用のキャビンです。そして1900は、社交室で華麗にピアノ演奏するピアニストに釘付けとなりました。その日から1900は夜な夜な社交室に忍び込んではピアノを演奏する様になりました。それは見事な演奏で、いつしかキャビンの噂となり船長の耳にも届きました。船長は1900の演奏を見、船の専属ピアニストにすることを決めました。

そして数年が経ちました。1900は青年に成長して「海の上のピアニスト」と呼ばれていました。その頃です。ひとりのトランペット吹きがバンドマンとして船に乗り込んできました。トランペット吹きはマックスと名乗ります。ジャズ演奏がとても上手でした。ですから、バントの演奏中にも関わらず突然に指揮者を無視して即興演奏にふけってしまう1900とはすぐに打ち解け、とても良い友だちとなりました。
1900はどんなジャンルの曲でもピアノで演奏できました。それだけでなく乗客のひとり一人の人生を見透かして即興曲で奏でることも出来ました。

そんなある日、当代一のジャズピアニストが、1900に即興演奏の対決を挑んできました。そして船上で世紀の対決が始まります。
先に演奏したのは当代一のジャズピアニストです。ジャズピアニストは見事な演奏で観衆を魅了しました。そして演奏終了後、1900を挑発します。でも1900には人と争うという気性がありません。1900にとって演奏とは、美しい曲を奏でるすべでしか無かったからです。ですが、マックスが1900の勝ちに全財産をつぎ込んでいたこと、またジャズピアニストの見事な演奏に刺激され、ジャズピアニストを上回る神がかりな演奏を披露して、世紀の対決を制します。

1900の名声は、今や船外にも鳴り響く様になりました。でも1900は船の外に全く興味がありません。しかし、ある航海で出会った乗客から「海の声」の話を聞き、船上では聞くことが出来ない、陸の上でしか聞くことが出来ない「海の声」にとても興味を抱きます。

1900は、船上でレコーディングすることになりました。彼の音楽は金になるとレコード会社が乗り込んできたのです。1900はピアノの前に座り、船窓から見えるデッキの風景を眺めていました。ひとりの少女が窓に映ります。無垢な少女の仕草に、1900は生まれて初めて淡い恋心を覚えます。そしてとてもロマンチックな即興曲を奏でました。レコーディングは大成功で、一枚のレコードの原盤が出来上がりました。でも1900はそのレコードの原盤を少女にプレゼントすることに決めました。
しかし、1900には少女に告白する愛の言葉を持ち合わせていませんでした。そして少女にプレゼントを渡すことさえ叶いませんでした。ですが、少女が下船する直前、短い会話をすることが出来ました。そして少女が、かつて1900に「海の声」の話をした乗客の男の娘であることを知りました。
それから何度目かの航海の後、1900は船を下りることを決心します。少女のもとを訪ね、そして一緒に「海の声」を聞くつもりです。
マックスは、自分の大切なキャメルのコートを1900にプレゼントしました。船の仲間全員が1900との別れを惜しみます。そして遂に1900が船を下りる日が来ました。ニューヨークの摩天楼に向かって1900は桟橋を下っていきます。
しかし、1900は中程で歩みを止めてしばらく街を見つめると、再び船に戻ってしまいました。そして二度と1900が船を下りることはありませんでした。

そして年月が流れて、マックスが引退して船を下りることになりました。
それからまたしばらくして戦争が始まり、船は軍の輸送船に徴用されることになりました。

戦争が終わりました。かつてヴィクトリア号と名乗っていた船は傷み、廃船となる事が決まりました。

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年老いたトランペット吹きは、店主に一つの物語を語り終えた後、廃船となる船に向かいました。今もきっと船の中に身を潜めて生きている友人を探し出し、船の外に連れ出そうと思ったのです。そして船主に事情を話し、船に乗り込みます。でも、何度呼びかけても友人は姿を見せてはくれません。
トランペット吹きは、店主にレコードと蓄音機を借りて、船の中で友人がかつて演奏した曲を流しました。それでも友は姿を見せてはくれませんでした。
諦めて船を去ろうと立ち上がった時、暗がりの中に人の気配を感じます。友人でした。
友人は姿を現しました。友人はタキシード姿で、今も若きピアニストのままでした。
友人は言いました。
「僕は、船の外に出る事ができない。」
人生には限りがある。それはピアノの鍵盤と同じで、始まりがあり、終わりがある。僕はピアノの88の鍵盤でなら、無限の曲を奏でること出来る。そして船の中で与えられた人生に満足している。
でも、船の外は果てしが無い。まるで無限の鍵盤の様で、僕には演奏ができない。無数の人生に通じる道を僕は選ぶことが出来ないのだ。
そして友人は、船と共に逝くことをトランペット吹きに話します。
二人は固く抱き合い、そして別れました。

トランペット吹きは、船が沈むのを見届けた後、再び楽器店を訪ねます。そして友人との別れの行を店主に話し、お礼を言って店を出ました。
店主は、トランペット吹きが店に残したトランペットを抱えて、トランペット吹きを呼び止めます。
そして、「君の大切な品物だ。美しい話を聞かせてくれたお礼だよ。」と言って、トランペットを手渡します。
トランペット吹きは一礼し、店を出、通りの向こうへ歩き去って行きます。その後ろ姿を、店主はいつまでも見送っていました。

end

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