立て板に水のべらんめえ言葉の寅さんが、一番似合わないであろう浪速言葉と浪速女にすっかりほだされ、ふみさんと別れて葛飾柴又のとらやに戻ったときには、すっかりえせ浪速男となって浪速言葉で家族に話しかけるシーンには大爆笑しました。
でもその前段の、ふみさんとの切ない別れのシーンでは寅さんの本心が見えてじんときました。
生き別れの弟が実は数日前に突然の病で亡くなっていたことを知ったその夜、気丈にも座敷に出たふみさんでしたが、堪らなくなって座敷を飛び出し、酒をあおって寅さんの寝床部屋を訪れます。ふみさんは何もかも放って寅さんの胸に飛び込み泣きたかった、そして抱きしめられたかったのだと思います。マドンナに恋するだけの男なら渡りに船というか、本懐を遂げたであろうと思います。でも寅さんはそうはしなかった。膝の上で泣き眠るふみさんの頭をそっと持ち上げて座布団の枕をあて、その体にせんべい布団を優しく掛けてから、一人部屋を出ていきました。翌朝早く、一人街を出て行ったふみさんが部屋に残した手紙にふみさんの本意が綴られていましたね。それを読んだ寅さんもこの浪速の街を出て行きました。
その夜、寅さんにとってふみさんはもう、愛する女性ではなく、愛しい娘になっていたのだと思います。だから寅さんはふみさんの慕情に応えられなかったのだと思います。
そして物語は、いつもの寅さんの失恋旅で終わるのでは無く、ハッピーエンドでしたね。ある日、とらやにふみさんが訪れて、とらやの家族と一時を和やかに過ごしてから、結婚して対馬に移り住むことを話します。それはまるで娘が父に結婚の報告をする様でした。そして後日、寅さんが娘に会いに対馬を訪れる場面で物語は終わりました。
この「男はつらいよシリーズ27作目 浪速の恋の寅次郎」は1981年公開の映画ですが、マドンナを演じた松坂慶子さん、当時27、8歳でしょうか。眩しいほど綺麗でしたね、溜息が出ました。
1983年公開の「鎌田行進曲」を当時、梅田の映画館で観て、すっかり小夏の松阪慶子さんに魅了されたこと思い出しました。銀ちゃんの擦れた彼女からヤスの妻となり純朴で可愛らしい女性へと変わってゆく小夏ちゃんにすっかり魅了されました。
ああぁ~また「鎌田行進曲」観たくなりました。