播磨の国ブログ検索

映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2018年3月12日月曜日

戦争と平和について考えるのにとても良いテキストの話

先の記事で書いたように

「戦争反対、そして平和憲法を守れ、というのも第二次世界大戦で敗北し、この戦争によって深く傷ついた日本人には、とてもシンプルで受け入れやすい動機付けのお題目です。
反戦主義、平和主義、といったものは議論の余地の無いものです。でも本当に、反戦や平和に議論の余地は無いのでしょうか。

私は、反戦主義、平和主義を、学校などで子供達にお題目としてすり込むのではなく、
何故戦争がおこるのか(何故争いがおこるのか、或いはおこすのか、また争いはよくないのか)、
何故平和を維持することが難しいのか(何故仲良くするのが難しいのか、或いは仲良くしなければいけないのか)、
を身近なことから考えて、話し合って、そして、
戦争を起こさないためにはどうすべきか、
平和を維持するためにはどうすべきか、
そういう考え方が共通認識となっていくこと、
それが今とても大事になんだと思います。」

でもそのためにはテキストが必要です。
ですが最近、戦争や平和について考えるのにとても良いと思うテキスト(絵本)を知りました。今回、それを是非紹介したいと思います。


「せかいでいちばんつよい国」
日本では、2005年になかがわちひろさん訳(発行所:光村教育図書株式会社)で出版されました。オリジナルは2004年に英国の絵本作家ディビッド・マッキーさんの絵本「THE CONQUERORS」(直訳は、征服者、あるいは戦争の最終的な勝利者)です。

マッキーさんが美術学校の生徒であった頃、第二次大戦でイタリアに従軍した同級生がいました。その同級生が言った言葉
「我々はイタリアを征服した。でも、私はイタリアに征服された。」
が、後年までずっど心に残っていて、いつか物語にしたいと考えていたそうです。
同級生の言った言葉の本意は
「我々は戦争でイタリアに勝った。でも私はイタリアで出会った人々や文化に魅了された」だと思います。
また創作の直接的なきっかけは、アメリカのイラク侵攻であったといいます。
この「THE CONQUERORS」には、同級生の言葉のテイストだけではなく、戦争の大義名分が如何に人間を翻弄するかということ、また人間の歴史が征服者達によって綴られてきた側面があること、等々さまざまに考えるきっかけを与えてくれました。
また、大きな国に滅ぼされた国の文化や生き残った小さい国の文化はどうなったのか、
元の国の文化として生き残ったのか
歴史が改ざんされて、大きな国の文化となってしまうのか
それとも、滅ぼされたのか
等々考えさせられもしました。

また翻訳絵本の場合、タイトルや内容に違訳がないか注意する必要も感じました。私はオリジナルタイトル「THE CONQUERORS」から「せかいでいちばんつよい国」がどうしても連想できませんでした。それで、「THE CONQUERORS」をGoogleブックで購入し、テキストをGoogle翻訳して、そして日本語訳絵本の物語と読み比べしました。
そして、絵本にとどまらず、オリジナルを学ぶこと、作者の履歴や作品の年譜を時代背景と照らし合わせて読み解くことに意義を感じた次第です。


「六にんの男たち -なぜ戦争をするのか?-」
この絵本もディビッド・マッキーさんの作品で、1972年にマッキーさんが児童絵本作家としてデビューを飾った絵本です。日本では1975年に中村浩三さん訳(偕成社)で出版されました。オリジナルタイトルは「Six Men」です。

物語はいたってシンプルです。
六人の男が、財産をもったことで、
幻の敵に狙われる恐怖と、もっと裕福になりたいという欲望が動機付けとなり
戦争を始めます。
しかし戦争は六人の男から、国も財産も家族も仲間もすべてを奪います。
生き残った六人の男は、荒野を彷徨って、いつかどこかに根付いて暮らしを始めます。
そして再び財産を築いていく。

戦争と破滅と再生を繰り返す人間の愚かさが、短い物語に端的に描かれていました。


「なぜ あらそうの?」
ロシアの画家ニコライ・ポポフさんの作品です。1990年半ばの作品で、テキストが無い絵本です。オリジナルタイトルは「Why?」です。

YouTubeに動画がありました。
動画タイトル「Why? By Nikolai Popov」
https://www.youtube.com/watch?v=6sVJb4SSoWA


一輪の花を巡って、一匹のカエルと一匹のネズミが争いを始めて、それがやがてカエルの国とネズミの国の全面戦争に発展し、お花畑どころかすべてが戦争で焼き尽くされ破壊されてしまう様が描かれます。


「なぜ戦争はよくないか」

2007年にアメリカの人権活動家で作家であるアレン・ウォーカーさんの文とステファーノ・ヴィタールさんの絵で描かれた作品です。日本語訳は、2008年の長田弘さん訳(偕成社)で出版されました。オリジナルタイトルは「Why War Is Never a Good Idea」です。じんと心に沁みる詩と絵でした。

朗読動画を作成しました。
絵は、Internet Archiveというサイトで公開されていた電子ブックを利用させて頂きました。
https://archive.org/
そしてBGMは、映画「シンドラーズリスト」のサウンドトラックを使わせていただきました。


わらえない「わろてんか」、そして戦争を平和を、考える

終幕が近づいた朝ドラ「わろてんか」ですが、先日心に留まった台詞がありました。
それは新聞社から中国大陸に出兵した兵隊の慰問を要請されたおてんさんが、悩んだ末に出した受託の意思を示す台詞です。

軍隊のため、北村笑店のためではなく
戦地で戦う軍人さんのために
家族である芸人を慰問に派遣する

満州事変から太平洋戦争終結までの日本の十五年戦争の始まりの頃の逸話を読んだことがあります。ある新聞が軍部を批判する記事を書いたところ、読者の怒りを買って大規模な不買運動へと発展したために、以降ジャーナリズム精神を脱ぎ捨てて軍部の御用新聞に成り下がったという話です。
神国の軍隊の正義と力を信じ込んでいた国民を敵に回せば、商売ができなくなるだけでなく命も危なくなること、またこの先、軍部の検閲や弾圧がますます厳しくなっていくことなど、時勢に敏感な商売人なら肌で感じていたでしょう。そして、商売を続けるためにはどう立ち回らなければいけないか、生き残るためには何をしなければいけないか、それは軍部に従うこと、と悟っていたと思います。
そしておてんさんが悩んだことは、ご自分を納得させる大義名分を考えることであったと思います。

昨年、再び注目を浴びた行動経済学、行動心理学は、「人間は倫理的な思考よりも感情で行動が左右される」という考えを基に、感情に一定の指向性を与える動機付けを考える学問です。そして動機付けは、大層な理屈や手順の煩雑さは好まれず、単純明快で簡潔簡単が好まれること、様々な実証実験で証明がされています。
まだ行動経済学、行動心理学がなかった時代、大義名分はまさに人間に一定の指向性を与え行動を起こさせる動機付けであったと思います。


飛躍してしまいますが、
戦争反対、そして平和憲法を守れ、というのも第二次世界大戦で敗北し、この戦争によって深く傷ついた日本人には、とてもシンプルで受け入れやすい動機付けのお題目です。
反戦主義、平和主義、といったものは議論の余地の無いものです。でも本当に、反戦や平和に議論の余地は無いのでしょうか。

私は、反戦主義、平和主義を、学校などで子供達にお題目としてすり込むのではなく、
何故戦争がおこるのか(何故争いがおこるのか、或いはおこすのか、また争いはよくないのか)、
何故平和を維持することが難しいのか(何故仲良くするのが難しいのか、或いは仲良くしなければいけないのか)、
を身近なことから考えて、話し合って、そして、
戦争を起こさないためにはどうすべきか、
平和を維持するためにはどうすべきか、
そういう考え方が共通認識となっていくこと、
それが今とても大事になんだと思います。