2月25日にNHK-BSプレミアムで放送のあったドキュメンタリー「ロシア 衝突の源流」を観て、これまでよく知らなかった現在も続くロシアの帝国化の歴史を少しですが知ることが出来ました。
ドキュメンタリーは、オックスフォード大学の教授で国際政治学者であるリチャード・ネッド・レボー教授が、古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスが「人はなぜ戦争を選ぶのか」の動機としてあげた「fear 恐怖」「spirit 威信」「Appetite 欲望」の三つのキーワードに照らし合わせながら、大国化強国化帝国化の野望を実現するために、人民の犠牲も厭わず、なりふり構わず戦争に邁進し続けてきたロシアの戦争の歴史を解説するという内容でした。
番組は、3月11日(土)13:30から再放送されます。
番組の終盤に、三人の学者が語ったメッセージを、下記に記します。
クリストファー・コーカー教授 専門分野:軍事史・戦略史
「19世紀、ヨーロッパのほぼすべての国が国民国家になろうとしていました。しかしロシアは一度も国民国家になったことがない。ロシアはずっと皇帝がいる国なんです。」
ナレーション
「ソ連崩壊から9年後の2000年、ロシア共和国のリーダーとなったプーチン大統領。
東ヨーロッパの国々はロシアの影響下から離れ、ウクライナなどソ連の構成国も次々に独立しました。ロシアの勢力圏は帝国時代と比べて狭くなりました。
今、戦場となっている地域はかつてのロシア皇帝たちが求めて止まなかった黒海への道に位置します。しかしそこは古来からのロシア領ではなく、戦争によって手に入れた土地でした。」
ウラジミール。プーチン
「ウクライナ侵攻はロシアの同胞を守るためです。我々には他の手段はなかったのだ」
ナレーション
「かつて自らを正教会の守護者として戦争に及んだロシア、しかし、ウクライナもまた正教会の国です。プーチンが崇拝するかつてのロシア皇帝たちの主張とそれは矛盾しないのでしょうか。
核兵器の使用さえほのめかしているロシア、破壊の限りを尽くした先に何が有るのか、プーチンはかつての皇帝たちが想像さえしなかった領域に踏み込もうとしています。」
アンドレイ・ゾーリン教授 専門:ロシア文学・ロシア歴史
「歴史家である私が言うのも変ですが、世界を平和に保つ為に重要な事は、指導者たちが現代の問題に対する答えを歴史に求めないことです。歴史的に自分たちの土地がどうかを考えても不満しか産みません。あなたの国が過去に私の国を迫害したかどうかを考えても憎しみしか産みません。
歴史が国際政治の議論の中心になってはいけないのです。国の指導者が歴史を政治に利用し始めたとき戦争の前触れとなるのです。
私たち専門家の仕事は歴史を戦争の道具にしないことです。学問として冷静に捉え、憎しみや恐怖を生まないようにしなければいけないのです。」
リチャード・ネッド・レボー教授 専門:国際政治学
「20世紀に入り、大国が戦争に負けるようになりました。その理由の一つがナショナリズムです。戦争とは敵に苦痛を与えるだけでなく、自らも犠牲に耐えなければなりません。だからこそナショナリズムが必要なのです。
ウクライナ人は、こう話している間にもロシア軍と良く戦っています。西側諸国がウクライナに最新武器を提供したからだけでなく祖国を守るために戦って死ぬ覚悟があるからです。一方のロシア兵にはそんな覚悟は有りません。
ウクライナだけではありません。歴史を見れば明らかだと思います。戦争はもう起こしてはいけないのです。犠牲が大きすぎるのです。
更に、周囲の反対を押し切って戦争を仕掛けても国際社会からは孤立してしまいます。ロシアは今、非常に大きな代償を払っています。
プーチンは自分をピョートル、エカテリーナやスターリンの後継者でありロシア帝国を築き上げる使命があると考えています。しかし現実はその逆で、プーチンはロシア国家を破壊している最中だと思います。」