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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2018年3月1日木曜日

考えさせられる「せかいでいちばんつよい国」の物語

オリンピック期間中はまるで休戦していたかの様に、オリンピックが終わって再び北朝鮮の脅威と憲法第9条改憲論争がやかましくなってきました。
その様子を見てふと、一冊の絵本の事を思い出しました。数年前に武田鉄矢さんがあるテレビ番組で読むべき本として紹介された「せかいでいちばんつよい国」です。
高砂市立図書館にありましたので、さっそく借りて読みました。
読んでみて、想像とずいぶん違う感想を持ちました。
この物語には三つの国が登場します。

一つは、世界一強い軍隊を持つ大きな国です。
その国の国民は自分たちの暮らしが世界で一番素晴らしいものだと固く信じていました。
その国の大統領は、国民に対して「世界中の人々が我々と同じように幸せに暮らせるよう、すべての国を征服しよう!」と号令し、軍隊を引き連れて他国に次々と戦争をしに出かけます。

二つは、大きな国から戦争を仕掛けられて、命がけで戦った国々です。
しかし最後は、世界一強い軍隊に打ち負かされて殺されて敗北し、征服されてしまいます。

三つは、大きな国に最後に戦争を仕掛けられた、とても小さな国です。
その国の国民は、大きな国の軍隊がやって来たとき、刃向かうのでは無く、まるで友人が訪ねてきたことのように歓迎し、大きな国の大統領にはこの国で一番大きくて立派な家を進呈し、兵隊は各家々で、心を込めてもてなしました。このために小さい国では戦争は起こりませんでした。

大きな国の兵隊は、小さな国の人々と交流する中で、この小さな国の楽しい話や楽しい歌、珍しい遊びを楽しみます。また小さな国の美味しい料理を楽しみ、兵隊の仕事がないときは小さい国の人々の仕事を手伝うようになりました。
それを見た大統領は、怒って緩んだ兵隊を国に帰し、新しい兵隊を呼び寄せます。でもしばらく経つと、また同じような事になりました。大統領は、この国を管理するのに軍隊はいらないと考えて、見張りだけを残して国に帰ることにしました。
大統領がいなくなるのを見届けた見張りの兵隊は、普段着に着替えて小さな国の人々の様に生活する様になりました。

小さな国から帰還した大統領と兵隊は、大きな国の国民から「世界を救う正義の味方!大きな国は強い国!」と盛大に出迎えを受けました。
懐かしいふるさとに戻った大統領はほっとしながらも、国民の様子が変わったことに気づきます。あちこちの家から小さな国の料理の匂いがしてきます。小さな国の遊びが流行り、小さな国の人々と同じ服を着ている人も見かけます。
大統領は、にはりと笑いました。
「まあいいさ、どれもこれも戦争で分捕ってきたものだからな」とつぶやきます。

その夜、大統領はベッドに入った息子から歌をせがまれます。そこで大統領は目をつぶり、心に浮かぶ歌を次々に歌ってやりました。その歌はひとりのこらず、彼が征服したあの小さな国の歌でした。

以上があらすじです。
読む前は、戦争をしない国が起こす奇跡というファンタジーが描かれているものと想像していました。でもほのぼのとしたイラストの上に綴られた物語には、まるで歴史上の独裁者とその独裁者が率いた好戦的な強国を彷彿とさせる生々しい恐ろしさがありました。
著者であるデビッド・マッキーさんが名付けたオリジナルタイトルに目をやりますと”THE CONQUERORS”と書かれていました。辞書を引くと、征服者、あるいは戦争の最終的勝利者の意味でした。
デビッド・マッキーさんはこの絵本で、世界で一番強い国への痛烈な批判と、強国が繋いできた人類の歴史への風刺を込められているように思いました。

それ以外にも、様々に考えさせられました。
小さな国は戦争で滅ぼされることはありませんでした。そしてその小さな国の文化は駐留した兵隊達によって大きな国へと広がりました。でもその文化は小さい国がリスペクトされて広まっているわけでは無く、大きな国に奪われて大きな国の新しい文化として広まっていると想像できます。小さな国は文化が奪われるだけで無く、小さな国が文化を育んできた歴史までも奪われてしまう、実際に歴史の中で繰り返されてきた悲劇を見る思いがしました。

他にもこの絵本が2004年に出版されたことから、作者であるデビッド・マッキーさんは、西洋の価値観でイスラム世界への軍事介入を始めたアメリカをはじめとする西洋諸国への警告も込められているようにも思いました。

とても深く深く、考えさせられる物語です。

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