1951年(昭和26年)に、アメリカで映画「地球が静止する日 原題:The Day the Earth Stood Still」が制作され、世界に向けて公開されました。
1939年9月に始まった第二次世界大戦は、人類史上最悪の6千万とも8千万ともいわれる犠牲者(軍人:2200万~2500万、民間人:3800万~5500万)を出し、1945年9月に連合国軍(United Nations)の勝利で終戦を迎えました。そして10月、連合国が中核となって地球の平和と安全を管理するための国際連合(United Nations)を設立しました。
しかし、人類は平和への道を歩む事が出来ませんでした。大戦中からの軍備拡大によってアメリカとソ連は超軍事大国となり、両国は地球の覇権を競う冷戦を始めました。そして双方が相手よりも強大な力を得るために、核兵器やロケット兵器という終末兵器の開発と配備に邁進しました。
この冷戦が、いつ終末戦争に発展してもおかしくないという恐怖を抱いた人々が、この映画を作ったのだと私は思います。
あらすじです。
ある日突然、地球外から宇宙船が飛来し、ワシントンD.C.のナショナルモールに着陸します。宇宙船から降り立ったのはヒューマノイド型の知的生命体とその僕となるロボットでした。ロボットは地球を破壊する力を秘めていました。知的生命体は友好的に振る舞いながら、地球に危機が迫っている事を警告し、合衆国大統領一人にではなく、地球上のすべての人々に直接危機の内容を伝えて人類の選択を求めるために、世界中の国家指導者、宗教指導者、聡明な科学者、哲学者、思想家をすぐに集めるよう要求します。そして要求に従わせる為に、人類が理解できない力で地球上のすべての電力を無力化して見せます。
そして知的生命体は、集まった人類の命運を握る人々に向かって、話します。
『我々は、人類が原子力を発見し、ロケットの実験を始めた事を知った。あなた達が原始的な武器で地球上で戦争をする事には一切関知しないが、原子力とロケットの力を戦争や侵略に利用することには、大いに危機感を持っている。
あなた達の祖先は、法を作り、法によって秩序を作り、その秩序を守る警察を作り、法と秩序を維持してきた。
我々も同様だ。惑星間で法を作り、秩序を作り、秩序を守る警察を作り、惑星間の平和と安全を守る秩序を維持している。我々は警察に絶対的な力を与えた。平和を乱す、秩序を乱すものが現れたら警察が自律的に排除する。それは我々にも誰にも止める事は出来ない。そのお陰で、我々はすべての武器を放棄し、恒久の平和を手に入れた。そして、実益ある目的のみを追求できるようになった。
もし、あなた達が原子力とロケットの力を地球外に行使しようと試みれば、我々の警察が検知し、自動的に地球を破壊するだろう。
我々の警察は、常にあなた達を監視している。地球内の運営はあなた達に任せるが、もし暴力を地球外に拡大させようとすれば、地球は燃え殻と化すだろう。単純な選択だ。我々と平和に暮らすか、消滅の危機に晒されるのか。返事を待っている。決断はあなた達次第だ。』
END
冷戦状態は、1991年にソ連の崩壊によって解消しましたが、ソ連の崩壊は、核兵器やロケット兵器の技術の拡散を招きました。アメリカやソ連や宗主国に抑圧されてきた従属国や振興国までが、抑止力として終末兵器を開発し配備するようになりました。一時、一強となったアメリカが地球の警察となってグローバリズムを牽引したものの、振興国や既存のデモクラシー国にナショナリズムが広がり、中国やインドがアメリカの地位を脅かす存在に成長し、ロシアが再び軍事大国を気取るようになって、地球は再び冷戦に入り、我欲を押し通すための熱い戦争も始まりました。地球の平和と安全を管理する国際連合は、まったく役に立たなくなりました。
そして今、地球のそこかしこで終末戦争に繋がりかねない戦争が起こっています。
ロシアは、ソ連崩壊まで従属国であったウクライナに、2022年2月に軍事侵攻を開始し、ウクライナ国内は二年に渡りロシアによる侵略戦争が続いています。この侵略戦争で、ウクライナ兵が3万人以上、民間人が約1万人、ロシア兵に至っては30万人以上が戦争の犠牲者となっていて、その数は日一日増え続けています。
侵略の首謀者であるロシアの大統領プーチンは、膠着する戦局を打開する為に、ウクライナを支援するヨーロッパ、アメリカ、日本などに対して、核兵器の使用をちらつかせて、支援を後退するよう脅しを掛けてきました。
中東アラブ地域では、1948年のユダヤ人国家イスラエルの建国以降、イスラエルとイスラム世界の国々との対立が現在も続いています。そして今年10月に、イスラエルによって占領され続けてきたパレスチナ人の自治区であるガザ地区のイスラム抵抗運動組織の一つであるハマスが、イスラエル国内でイスラエル建国以来最悪となる大虐殺と大人数の人質を連れ去るという大規模テロを引き起こしました。このテロ事件が引き金となり、イスラエルは人質救出とハマス殲滅を目的としたガザ地区への大規模武力侵攻を開始しました。この武力侵攻は、ガザ地区に暮らすパレスチナ人を子供も女性も見境無しに殺害し、ライフラインや病院まで機能停止に追い込む非人道的な報復戦争の様相を呈しています。そしてガザ地区では、病人や怪我人、妊婦、新生児を含む一万人以上のパレスチナ人が殺害され、ガザ地区でパレスチナ人の支援活動を行っていた外国人も殺害されています。そして終わりの見えない武力侵攻の犠牲者は、日一日増え続けています。さらにイスラエルの現役閣僚の一人が、ガザ地区への戦略核兵器の使用に言及しました。
この状況に、イスラム世界の国々、人々だけでなく、アメリカと親和的な国々の国民の中にも、イスラエルやイスラエルを全面的に支援するアメリカに対する不信感や嫌悪感、そして憎悪が広がっています。
今、誰がこの危機を止められるのでしょうか。
今、この世界には絶対的な警察はいません。法も秩序も有名無実になり果てています。宗教も役には立ちません。
では、何が起こればこの危機は止まるのでしょうか?
地球温暖化という人類存亡の危機の兆候を私たちは関知しているのに、それでも私たちは団結できず、我欲の争いを続けています。
映画が描く様な人類全体を脅かす未曾有の脅威が現れるか、破滅的な天変地異が起こらない限り、私たちはこの危機を止める事が出来ないのかも知れません。
不可能に思えますが、
私たち一人一人が他者を攻撃する武器を捨て、他者を欺く悪意を捨て、連帯と慈愛と寛容に身を捧げるしか、それしか、危機を止める望みを託す術は無いのかも知れません。
でも本当に、私たちの子、孫、そして未来の子孫に希望を残すためには、この術を直ちに実行しなければならないと思います。