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差別の天秤

「愛を読む人」という約10年前公開の映画の、他の方が書いた映画評を読みました。 そこには私が考え及ばなかった、ハンナが隠し通した秘密についての考察が書かれいました。ハンナは文盲でした。そして、その事実を生涯隠し通しました。それは何故かです。 映画か原作小説の序章で、ハンナの...

2018年2月3日土曜日

地球を呑む

「地球を呑む」という漫画を思い出しました。
半世紀前に手塚治虫が描いた、この世界が終わる物語です。

夫の非情な裏切りによって、父を殺され財産も名誉も奪われた女が、娘達に男達への復讐、男達が築いた社会への復讐を誓わせて息を引き取ります。これが序章です。
娘達は、祖父と母から引き継いだ化学研究をもとに人工皮膚と媚薬を完成させ、遂にビーナス(容姿端麗な絶世の美女)の全身スーツを身に纏い、ゼフィルスと名乗って男達への復讐を開始します。
ゼフィルスは、世界中の名だたる男を誘惑してはその美貌と媚薬の力で虜にし、そして男の全身スーツを造って、男に入れ替わり、男の名声や地位、そして財産を奪っていきます。
ゼフィルスは同時に、人工皮膚の技術を世界に公開します。その技術によってあまたの人工皮膚商品が製品化され、誰でも他人になりすます事ができるマスクや全身スーツを手に入れることが可能になります。人工皮膚商品を手に入れた人々は、変身願望を満たすだけにとどまらず、やがて他人になりすます快楽に溺れ、ついに他人になりすまして起こす犯罪が横行し、社会の秩序が崩壊に向かいます。
そして仕上は、金融システムの破壊です。ゼフィルスは世界最大の金鉱脈から採掘した金塊を、石ころのように町中にばらまきました。これによって金はその価値を失い、紙幣は紙くず同然となりました。
そして、この世界から法と秩序が失われ、暗黒時代が始まります。それは名だたる男達の上にゼフィルスが君臨する世界の始まりでもありました。

という様な物語でした。
この物語を思い出したきっかけはコインチェック騒動です。

インターネットの商用利用が始まって20年以上が経過しますが、スマートフォンが爆発的に普及したこの十年弱で、SNSやネットゲームが私たちの生活に切っても切れないものになりました。SNSやネットゲームでは、やろうと思えば他人になりすますことは簡単です。そしてネットを利用した新しい卑劣な犯罪が横行するようになりました。
そしてビットコインに始まる仮想通貨の広まりです。

ビットコインは、2008年にSatoshi Nakamotoと名乗る謎の人物が暗号化理論の研究者が集うメーリングリストに投稿した論文「ビットコイン: P2P 電子通貨システム」から始まり、Satoshi Nakamotoを中心にビットコインゲームが開発され、2009年に最初のビットコインの取引(Satoshi Nakamotoから開発者Aに送信)が行われました。
ビットコインゲームは自律型のコンピュータシステムです。
ゲームに参加するプレーヤーは、ブロック(10分ごとのビットコイン取引記録)を、直前のブロックにチェーンで繋ぐ作業(これをマイニングと呼んでいます。採掘です。)を競います。プレーヤーは、マイニング毎にシステムから示される一意の数値と計算式を使って、計算式を使った結果が一意の数値となる入力値(これをノンスと呼んでいます。)を探します。そして最初にノンスを探し当てたプレーヤーに、その報奨としてシステムから一定量のビットコインが与えられます。ビットコインが生成される瞬間です。
報奨としてシステムから与えられるビットコインの数量は、21万ブロック毎に半減します。最初の21万ブロックは50BTC(平たくいえば50枚のビットコイン)で、次の21万ブロックでは半分の25BTC、その次の21万ブロックでは12.5BTCというふうに半減していきます。
ブロックは10分ごとに作られるため、約4年で半減期が訪れます。
4年×365日×24時間×6回=210,240ブロック
システムが生成するビットコインの総量が21百万BTCと決められているため、2140年にビットコインの生成は終了します。この時、33回目の半減期で、マイニングの報奨は
0.0000000116415321・・・BTCです。

ビットコインゲームは当初、開発者の仲間内で行われていたようです。
しかしある日、一人のプレーヤーがピザをビットコインで手に入れます。ビットコインによる経済活動の始まりです。
2010/5/17 A→ビットコインでピザを買いたいと投稿
2010/5/22 1万ビットコインとピザ二枚の取引が成立

ビットコインが経済活動に利用できるという噂は瞬く間に世界中に広がって、様々な資本や組織がプレーヤーとして参入し、マイニングは加熱の一途をたどることになります。ゲームでしかなかったころは、パソコンユーザーでもマイニング探索でビットコインを得ることもできましたが、現在ではマイニング専用マシンが開発され、24時間365日マシンを稼働し、膨大な電気エネルギーを消費しながらマイニング探索が行われる様になりました。また、ビットコインによる経済活動は、ブラックマーケットのマネーロンダリングに大いに貢献し、ビットコインと現実通貨とのレートは日増しにつり上がって行きました。
この時期にSatoshi Nakamotoは、忽然と姿を消した様子です。
Satoshi Nakamotoが保有するビットコイン数量は100万BTCともいわれます。

ビットコインは魅力ある投機対象として認知されるようになりました。それに伴って、どんどんとビットコインの取引所がネット上に作られる様になりました。
取引所でビットコインを購入するのは、とても簡単です。
まず取引所の会員となって、口座となるマイウォレットを作ります。
そして取引所の会員同士の売買希望の投稿が書き込まれた掲示板に、買いたい数量と1ビットコインの買値を投稿し、売り手とのマッチングを待ちます。そしてマッチングが成立すると、売り手に購入金額を振り込みます。振り込みが完了すると同時に、マイウォレットに購入したビットコインが移動して取引が完了します。
売る場合も同様に、売りたい数量と1ビットコインの買値を投稿し、買い手とのマッチングを待ちます。そしてマッチングが成立すると、買い手からの振り込まれた金額が、取引所の手数料を引かれて振り込まれます。次に現金化です。取引所から金融機関へ振り込み手続きを行います。手続きが完了すれば、銀行などの金融機関から現金を引き出すことができます。

そして現在、ビットコインに続いてあまたの仮想通貨が生み出され取引所で売買されるようになりました。今回のコインチェック騒動の渦中となったNEMもそうです。
NEM、調べてみるとビットコインとは違う成り立ちでありました。
2014年から2015年にかけて、1600人の投資家が集まってNEMシステムを開発しました。総発行量は89億XEM(89億枚のNEMコイン)で、最初に投資家に均等に分けられました。そして、NEMを保有する投資家と取引所が協力して、NEMの価値をコントロールしながら、市場での流通を進めています。
希少性で価値を生み出し、子供から学生、若い主婦まで巻き込んだ一時期のトレーディングカード狂乱を思い出します。

値がつり上がった仮想通貨を持つということはとても苦痛な事だと思います。
昨日一万円で購入した仮想通貨が、今日十万円の価値になり、明日には百万円の価値になるかもしれないという期待感とともに、価値が上がるほど、現金化が難しくなることに気づきます。売りの流れが加速すれば仮想通貨は暴落し、百万円の価値が一瞬で無価値に変わる恐怖が生まれます。そして、仮想通貨の価値事態が幻であることに気づきます。

仮想通貨の中で一番堅調なビットコインでさえ、もしSatoshi Nakamotoが保有するビットコインをすべて売りに出せば、ビットコインは直ちに暴落するでしょう。今日現在、ビットコインの日本円レートは約91万円ですが、それが直ちに無価値になる恐れも孕んでいる、それが仮想通貨の現実だと思います。
それを目の当たりにする人は、きっと世界の終わりと感じることと思います。

現状の様なギャンブル性の高い仮想通貨で大もうけできるのは、投資家と取引所だけなのではないでしょうか。コインチェック騒動発覚後、コインチェックのセキュリティ脆弱さがあらわになると同時に、それ以上に、580億円を失っても尚、被害者に報償金を支払い、事業を継続することができるというその体力、資金力はどこで生まれたのか、驚きを通り越し、恐ろしさを覚えます。
彼らこそ「地球を飲み干す」蟒蛇ではないかと思います。