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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2019年7月28日日曜日

バーチャル高校野球で準決勝を観戦しました。

高砂高校善戦でした。明日は、明石商業と神戸国際大附属で決勝です。


奈義町で桃色吐息

現在、過去、未来、人間の顔をシンボル化した巨大モニュメントといえば太陽の塔です。その内部に入ったのは、来年で丁度半世紀になります。ですから、その時見たことは、ほぼ覚えていないのですが、ただ異世界に紛れ込んだ様な、ただならぬ異様な体験であった様に、強い印象として残っています。

先週、なにげにテレビを見ていると、岡山の奈義町という町にある現代美術館が映し出されました。三つの現代アートが収蔵されているというちょっと風変わりな建物の美術館でした。そして昨日、東は台風の影響がありそうだし、最近の暑さにも辟易していたので、西の高地で「涼んでこ」と涼を求めがてら奈義町の現代美術館に行きました。それは異世界への誘いとなりました・・・

中国道を西に進むほどに天気は晴れてきました。美作で下りて後は県道51号線美作奈義線の一本道です。そして正午過ぎに奈義町現代美術館の駐車場に着きました。奈義町は頭上まで積乱雲がもくもくと沸き立つ真夏の有様でしたが、北にそびえる一千メートル級の那岐山山系に向かって一本の道が延びる景観があまりに見事で、吐息が漏れました。

正午過ぎということで、先に食事をすることにし、美術館の敷地の一角にあったレストランに入りました。なにげに入ったレストランは、なんと本格的ナポリビザが食べられるレストランでした。名前は、La gita ラ・ジータ、小さな旅、という名前のレストランで、厨房の真ん中に真鍮に輝く石窯があって、一枚一枚生地をのばしてから焼き仕上げるところまでテーブルから眺めることが出来ました。
このレストラン、とても人気店であるらしく客は途絶えることがなく、また予約客がほとんどの様子で、ふらっと立ち寄って、たまたまた空いていたウエイティングテーブルでゆったりと(なんと食事時間40分)食事をとれたことは幸運でした。
注文したのは定番のマルゲリータ(Margherita )とほうれん草のソースが掛かったブラッチョ ディ フェッロ(Braccio di ferro   ポパイの鉄の腕という意味らしいです)、石窯で焼き上げたマルゲリータは勿論美味しかったです。ですが初めて食したブラッチョ ディ フェッロは、濃厚なソースと、ふくよかな香り、しっとりとした味わいの三重奏で、我を忘れるほどでした。あまりの美味しさに、吐息が漏れました。

そして腹を満たして、いよいよ現代美術館に入りました。館内はよくクーラーが効いていました。受付をしてまずは右側の常設展示エリアに進みます。こちらカメラの撮影がOKでした。
大きな一枚ガラスのドアを押して入ったのが、「大地」をテーマとした空間です。天井が四角に切られて青い空が望めます。水で満たされた床面から何本もの細い曲線が延び、四角の空間の中を私には分からない規則性を伴って静物なのに優雅に踊っているように見えます。なんでしょう、小さな水音だけの銀世界、色のある世界を上に見る静寂の世界、私の感性では追いつけない異世界でした。
さらに奥に進みますと、習作が飾られた部屋があり、薄暗い部屋の右側面には真っ暗で狭い入り口がありました。左側面は光が差し込む明るい空間に続いているようでした。

暗い部屋に通じる入り口には「太陽」とネームがありました。二つ目のアート空間への入り口でした。そこに入ると、最初に迎えてくれたのは正方形の小部屋でした。暗く狭く、床が曲面で、壁にはびっしりと人の写真が貼り付けてあります。中央に螺旋階段の黒い筒があって、そこからガンガンと音を立てながら階段を上がると、そこは外観から見える斜めに置かれた円柱の内部でした。
ここは大伽藍なんですね、人工の照明は一つも無く、斜め上にある大きな円から薄暗い光が差し込んでいました。円は万物の源である太陽を象徴し、伽藍の中は球面で囲まれ、上下がなく、その球面に石庭があり、長い屋根があり、ベンチがありシーソーがあり鉄棒があるという重力がおかしくなったような、そしてとても童心を呼び覚ましてくれる空間でした。赤い産みの親の部屋から真っ暗な胎動を抜けると大日様が見守る子供の園なのでしょうか、そんな奇異な空間なのにまったく恐れを抱かない静かで満ち足りた異世界でした。


三つ目は、光り輝く三日月の形の「月」をテーマとしたアート空間でした。ここに一歩踏み入れた瞬間、音の反響のすごさにもう心が躍ってしまいました。現実の月は、真空の世界、音のない世界、生身では決して生きられない世界ですが、でも私たちが太古から想像した月の世界は、光り輝く神の国です。巨大で光り輝く大伽藍があって、音がどこまでも響き渡る畏敬の世界です。それがここで体験できました。
入館するときは、正直ここまで感激するとは思いませんでした。作家のイマジネーションが創造した異世界を心から満喫しました。また来たいと、吐息が漏れました。


車に乗ってから、もう一つ回ることにしました。樹齢900年を誇る大銀杏の霊木があるという菩提寺です。那岐山山系の登山入り口付近にあるということで山道を登りました。
山に入って、しばらく緩やかな坂道が続きました。でも車が全然進まないのです。どうしたことかと外を見ると、道の脇の看板が異様に傾いて見えました。いや、看板が傾いているんじゃない、坂が非常に急斜面なのだと分かりました。まだ美術館の延長で錯覚の世界が続いているかのような不思議な感覚になっていました。
それから細いくねった山道をしばらく走ると、那岐山山系の東面の中腹当たりにある菩提寺に着きました。
東の遠くに山並みが幾十にも重なっているのが見えました。雄大な風景です。
車から外に出て参道の入り口に立つと、ひぐらしや鳥の鳴き声の大音響に包まれました。
そして参道の石段を登ろうとすると、山道の石畳の奥から何かが下りてくるのが見えました。それは白犬でした。静かにゆっくりとこちらに向かって歩いてきます。あれ、神の使いか、なんてぼうっと眺めていると、妻が「野犬や」と声を出し、二人急いで車に戻りました。白犬は石段のところで止まり、こちらを眺めています。
しばらくして奥の駐車場に移動し、白犬の様子を眺めていました。白犬は、社殿の方に登っていました。でもこちらに気づくと、また近づいて来ました。
そこに別の赤い車が現れて、二人が車から外に出るのが見えました。急いで車をそちらに回し、「野犬が近づいて来ます」と声を掛けました。でもそのお二人はニコニコしながら参道を登っていきます。そして白犬もその二人の後に続いて行きました。
妻と顔を見合わせ、逃げるのが正しい行動やなと確認しながらも、でもそれがとても臆病な行動に思えて可笑しくなりました。そして勇気を振り絞り車の外に出、社殿に向かって参道を歩きました。
虫の音、鳥の声のシャワーの中を鮮やかで巨大な緑の世界を進みました。最初に迎えてくれたのは楓の大樹です。葉を満々と湛えた枝が幾重にも揺れています。それはまるで緑のカーテンの様にとてもとても涼しげでした。
お目当ての大銀杏は、一段上の社殿の右奥に祭ってありました。まるで杜の守り主の如く、威風堂々たる巨神木でした。
参道を下っていると、動物の遺棄・虐待防止のポスターが貼られていました。
あの白犬、よく見ると痩せ細ったとても気性のおとなしい老犬でした。この老犬も捨てられたのか、それでも車が来る度に、ご主人様の迎えと思い、毎度毎度参道をおぼつかない足取りで下っているのか、そういう実感で胸が締め付けられる思いがしました。でもどうすることもできず、募金箱に100円入れて、菩提寺を後にしました。


15時を過ぎ、今日一日の様々な思いを胸に抱きながら、帰路に着くことにしました。山道を抜けて国道53号線、そして県道356号線に入ると、道が濡れていました。濡れてアスファルトから湯気が沸き立っていました。そこで初めて雨が降っていた事を知りました。空は分厚い雨雲で覆われています。先ほどまでの天気の良さが嘘のようです。そして県道7号線に入った辺りから豪雨に見舞われました。そして県道53号線に入ってからは益々横殴りの暴風雨に変わり、ある交差点を越えたところで車を止めました。車を止めて、道の反対側を見ますと、来る時に見つけた桃の直売所でした。(後で調べると、JA勝田支所農作物出荷所の直売所でした)これは幸いと、雨ニモマケズ、道を渡るだけでずぶ濡れになるのもいとわず、店まで走りました。店にはおばちゃんお二人と中学生くらいの男の子が店番をされていました。
7個入で500円のカゴを指さし、男の子に美味しいのん選んでと頼みますと、おばちゃんが、後4カゴで売れないと帰れないと笑って言うので、二カゴ買うことにしました。すると、オマケで二つ付けてくれ、店の前で待機する車まで傘を差しかけて見送って下さいました。その人情味の温かさに、最後の吐息、桃色吐息が漏れました。