俳優の高橋英樹さんが、平成中村座姫路城公演を観劇されたというニュースを妻が見つけて教えてくれました。高橋英樹さんのオフィシャルブログには、中村勘九郎、七之助ご兄弟と共に舞台の上で記念撮影された写真が掲載されていました。その写真には、舞台の借景として、実物の姫路城天守の姿が、夜の静寂に青く輝いていました。
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実は、この平成中村座姫路城公演を、5月15日(月)に妻と一緒に観劇してきました。座席は舞台から見て右側にあたる二階の竹の後方の席で、舞台右側に延びる花道は真下にあって座席の前の柵の上に顔を伸ばさなければ見ることが出来ず、また舞台奥の借景も画角の下の方しか見ることの出来ない窮屈この上ない席でありましたが、でも第二部公演の二作目「天守物語」のクライマックス、舞台の背が開いて、光に照らされて緑に輝く姫路城内の松林が目に飛び込んで来るや、感動が頂上に達して、感激の涙がとめどなく溢れてきました。
歌舞伎なんて敷居が高いとか堅苦しいという何となくのイメージを持ってこの歳まできましたが、平成中村座という名と姫路城公演という希少さから、公演の座席を取り、いざ観劇すると、これまでのイメージは見事に払拭されました。
最初の演目「棒しばり」は、酒に目がない次郎冠者と太郎冠者の二人が、殿様の留守中に盗み吞み出来ぬ様に棒しばりされていたにも拘わらず、二人協力して酒蔵に潜り込み飲酒の挙げ句に棒しばりのまま酔いに任せて舞踊に興じるという、とても心躍る華やいだ演目で、その様子を楽しく堪能しました。そして何より、演ずる三名の演者とともに鳴り物奏者の方々、後見の方々、皆さんの一分の隙もない技量の素晴らしさに感銘を受けた次第です。
そして幕間後の二作目「天守物語」では、二時間近くにも及ぶ一幕の中で膨大なセリフと、一時も目が離せない演技、演出に対峙することになり、観る側も技量が試されている事を理解しました。そして私はその緊張に堪えきれず、前段の天守に潜むあやかしの姫君豊姫のところに、妹分である亀姫が遠く猪苗代の亀ヶ城から空を渡って訪問する怪しげで艶やかな交わりの段の途中で、窮屈な姿勢のまま寝落ちしてしまいました。気付くと亀姫がお供の鬼と帰路に着くところでした。しかし二段目では、豊姫と若侍の悲恋、そして追っての侍衆との立ち回りと、展開に強弱があって、そこでは舞台で展開される物語に引き込まれて、没頭して観劇しました。
豊姫の守護神である獅子頭が侍に刀で目を突かれると、豊姫と若侍ともに盲となり、このまま悲劇で終わるのかと悲観し始めたところで、この獅子頭を彫ったという名匠の翁が現れて獅子頭にのみを振るうと獅子頭の目に光りが戻り、それと同時に豊姫、若侍ともに目に光りが戻り、豊姫の怨念も晴れて、昇天するという大団円を迎えたところで、舞台の背が開き、外の本物の姫路城がライトに照らされた風景が、私たちの目に飛び込んで幕が下りました。
大大大大、大満足の観劇となりました。