今年のクリスマスは、はじめてドイツ菓子『シュトレン』を作ってみました。
シュトレンの形は、人としてこの世にお生まれになられたばかりのイエス様がおくるみに包まれた様子を模したものと云われます。ドライフルーツとナッツをこれでもかというほどに詰め込んだ生地を焼き上げると、ブランデーとバターとスパイスの芳醇な香りが漂います。その焼き上がったシュトレンを熱いうちにバターと粉砂糖でコーティングし、冷ましたのちに、冷蔵庫で寝かせます。
焼き上がりのシュトレンも勿論美味でしたが、数日寝かせたシュトレンはさらに美味しかったです。表面はカリカリなのに、中は上品な餡の様にしっとりねっとりしていて、口に含むと、芳醇な香りが口の中に広がります。ビギナーズラックというのでしょうね、とても美味しく出来ました。
図書館で見つけた、旭屋出版「シュトレン STOLLEN ドイツ生まれの発酵菓子、その背景と技術」という本のレシピを参考にしたのがよかったのかと思います。
本の中のシュトレンの歴史を興味深く読みました。
シュトレンという焼き菓子がはじめて歴史に刻まれたのは、14世紀のドイツ、ナウムブルクの町の記録でした。それは、1329年、ナウムブルクの司教ハインリッヒが町の製パン職人にギルドを作ることを許可し、パン職人たちはその特権に感謝して、司教にクリスマスの贈り物としてシュトレンを二本献上したというものでした。
ただ、当時のシュトレンは、現在の贅沢な焼き菓子からはかけ離れた、水と燕麦と菜種油で捏ねられただけの、とても素朴で、あまり美味しいとはいえないものでした。
一つの理由として、乳製品を材料に使えなかったことが揚げられます。当時のカトリックが支配する社会では、降誕祭(クリスマスの主日)前の期間である待降節(主日前の四週間)、四旬節(主日前の40日間)には乳製品や肉の摂取が禁じられていました。
この問題の打開に動いたのが、現在のシュトレンの本場とされるドレスデンを州都とするザクセン州の当時の選帝侯エルンストとアルブレヒト3世の兄弟王でした。二人の王は、当時のローマ教皇インノケンティウス8世に、シュトレン作りにバターの使用の許可を願う書簡を送りました。そして1491年、教皇はバターの使用を許可する御達しを与えます。この「バター書簡」によって、シュトレンにバターの使用が認められたことにより、シュトレンの人気は各地に広がっていきました。
ドライフルーツやナッツが使われるようになったのは、十字軍の遠征から帰還した騎士たちが持ち帰ったのが切っ掛けであったようです。その後、ドライフルーツやナッツはヨーロッパで非常に好まれるようになり、ぶどうはヨーロッパ中で栽培され、ナッツは中東との交易が盛んになったことから手に入りやすくなり、様々な料理に使われる様になりました。シュトレンもその一つだと云われます。
最後に砂糖ですが、砂糖はヨーロッパで19世紀中頃から工場生産されるようになって、庶民にも手が届くものとなったことから、シュトレンにも使われるようになったと云われます。
現在の形のシュトレンは、20世紀初頭からドイツの家庭でクリスマスの風物詩として作られるようになったようです。毎年11月頃に、母親が何㎏という重さのシュトレンを何本も焼き上げて、寒い地下室で寝かせ、待降節に入ってから、毎日少しずつ切り分けて家族とともに食するのだと云われます。ドイツの冬は長く寒いために、春の復活祭の頃まで食べ続けるとも云われます。日本の正月の餅を連想し、とても親近感が湧いてきます。
現在では、日本の餅の様に、ドイツでも家庭で作るものからスーパーマーケットで購入するものへと変化している様子です。日本と同じく季節を先取りして、夏のシーズンの終わり頃から、工場生産されたシュトレンがスーパーマーケットに並ぶと云われます。
ドイツでは、消費者保護も目的として、様々な食品がガイドラインが設けられており、シュトレンにも、次のような規約がありました。
「(一般的な)シュトレン」は、粉100㎏に対して、バター30㎏、ドライフルーツ60㎏を材料に使用しなければなりません。
「バターシュトレン」という高級品は、バター40㎏、ドライフルーツ70㎏となります。
そして「ドレスナー・シュトレン(ドレスデンのシュトレン)」となると、もっと細かく、バター50㎏、サルタナ種レーズン65㎏、レモン・オレンジピール20㎏、スイート種・ビター種アーモンド15㎏となっています。
私は次のようなレシピで作ってみました。
材料は、
ポーリッシュ種: 強力粉200g、牛乳200cc、イースト5g
本生地:強力粉800g、砂糖150g、熟成ブランデー200ccくらい、フードフロセッサーで挽いたミックスナッツ200g、ドライクラウンベリー200gくらい、スパイス(カルダモン、アニス、シナモン 各5g)、バター200g
仕上げ:表面に塗るバター適量、粉砂糖適量
①一日室温で寝かせたポーリッシュ種にクラウンベリーを除く本生地の材料を加えて、捏ね上げ、まとまったらクラウンベリーを加えて再び捏ね、一時寝かす。
②寝かした生地を、200gに分けて成形し、ラップに包んで、一日冷蔵庫保存する。
③冷蔵庫から取り出した成形生地を、縦横に折りたたみ、オーブン190℃ 40分で焼成する。
④焼き上げたシュトレンを熱いうちに、バターと粉砂糖でコーティングする。
⑤室温で冷ましてから、冷蔵庫で保存する。
これで完成です。だいぶ我流になってしまいました…