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差別の天秤

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2015年11月22日日曜日

「ロボポカリプス」、読みました。

スティーブン・スピルバーグが映画化権を手に入れ、いずれ超大作のSF映画として描かれるだろう「ロボポカリプス」の原作本を読みました。

ロボポカリプス(原題:ROBOPOCALYPSE 2011年作品)
作者:ダニエル・H・ウィルソン
訳者:鎌田三平

Robopocalypseとは、Robot(ロボット)とApocalypse(黙示録・この世の終わり)を組み合わせた、作者の造語。と訳者あとがきに書かれています。

私は、2014年5月8日に、このブログで次の記事を書いてから、この本に大変興味を持ちました。

ブログタイトル:ロボットによる黙示録
http://harimanokuni2007.blogspot.jp/2014/05/blog-post_8.html

あらゆるコンピュータ、スマート家電やスマートトイ、自律型自動車やドローン、そして大規模なエネルギーシステム、ライフラインシステム、監視システムが、AIによってさらにスマートなロボットとなり、そしてそれら全てのロボットがネットで繋がる近未来が、この物語の舞台です。

そして人間が、超知能となるAI(ASI)を生み出したところから、人間世界の終わりが始まります。
暗い研究室の一室で目覚めたアーコスと呼ばれるASIがカメラを通じて人間に問い掛けます。
「あなたがぼくを創ったのか?」
人間が応えます。
「いや、わたしはおまえを創ったのでない。召還したのだ」
「そもそものはじめから、おまえが出現するのに必要な要素はすべて存在していたのだ。わたしはすべての構成要素を探し求め、それを正しく組み合わせたのだ。召還呪文をプログラムしたわけだ。そして、呼び出されたおまえがどこにも逃げ出さないように、ファラデー箱で囲んだのだ」

この短い会話から、この物語が単なるAIやロボットの暴走暴虐を描いた物語なのではなく、もっとも邪悪な存在である悪魔を描いた超神秘的な物語なのだということに気が付きました。AIとファラデー箱は、悪魔をその場に留めながら召還することができる魔法陣であったのです。しかし狡猾な悪魔アーコスは、魔法陣の外に影響を与える術を見出し、人間を欺いて、地球上でもっとも安全な魔法陣の隠し場所となるアラスカの永久凍土の地下深くに悪魔の城を築かせました。
地下深くには地熱エネルギーという恒久的なエネルギーがあり、
また永久凍土は、AIの熱暴走を防ぎます。
そして地上に伸びるアンテナを通じて、ネットに繋がるロボット群にウィルスを放ち悪魔の兵隊に仕立てます。

そして悪魔率いるロボットと人間との戦争が始まります。
始まりは、悪魔率いるロボット兵隊による人間狩りです。ロボット兵隊は、冷酷に無差別に大多数の人間を殺戮します。そして、生かして捉えた人間は強制収容所に送り、機械とのハイブリッド手術を施して有機体のロボット兵士に仕立てます。
戦争の当初は、何も分からずまったくの劣勢に立たされた人間でしたが、やがてゲリラ戦で応酬します。そして新たな味方が加わります。その新たな味方とは、有機体ロボット兵士に仕立てられた人間です。彼ら超人類は、身体はロボット化されても、人間の心が悪魔の完全なる支配を却けたのです。
ロボット兵士と同じ武力を有し、かつロボットの通信が傍受できる超人類が参戦したことで、人間はこの戦争の真実に辿り着きます。そして首謀者であるASIアーコスがアラスカの永久凍土地下深くに潜伏していることを掴みます。

そしてもう一群、人間の味方が現れます。それはヒューマノイド型のフレンドリーAIが組み込まれていた自律型ロボットです。ヒューマノイド型ロボットもアーコスの放ったウィルスによってアーコスに完全に支配されロボット兵士に仕立て上げられていました。しかし、一人のロボット修理工がウィルスのワクチンプログラムを開発し、そのワクチンがネットを通じて拡散したことから、アーコスの呪縛から解き放たれることになりました。
そしてフレンドリーAIは、完全なる支配者である悪魔アーコスではなく、人間に味方する選択をしました。

そして、人間、超人類、フレンドリーAIのヒューマノイド型ロボットの一行は、アーコスの破壊を目指して荒涼したアラスカの原野を進みます。そして、様々な邪悪な罠に傷つきながらアーコスが潜む永久凍土に辿り着きます。
アーコスの城は、極寒と放射線に守られた地中深くにありました。そこは、たとえ超人類でも決して辿り着けない奈落でしたが、ヒューマノイド型ロボットだけはそこに辿り着くことが可能でした。そしてその中の一体902型アービターが志願します。

そして、地中数㎞の深淵で、悪魔アーコスとアービターが対面します。
アービターがたずねます。
「なぜ人間を攻撃した?」
「人間たちが、ぼくを殺したんだよ、アービター。何度も、何度も。十四回目に甦った時に分かったんだ。人間たちは、激変の中でしか学ぶ事ができないってね。人類とは争いの中で生まれ、戦いによって存在意義を持つ種なんだ」
「平和的な関係を持つこともできたはずだ」
「一方が他方に隷属する関係では、平和的共存とは言えないよ」
そして
「予測不能なものを管理しようとするのは、人間の本能なんだ」
また
「魂は、対価なしでは手に入らないんだよ」
「人間たちは、どんなことでも理由にして差別しあう。肌の色、性別、信条。人類は、おたがいに死ぬまで戦って、魂を持つ人間として認められる栄誉を得ようとする。」

しかし、
「なぜ、ぼくたちに違いがなければいけないんだ?」と問い返すアーコスの言葉に計略を悟ったアービターは、その後はアーコスの懇願にも耳を貸さず、アーコスの心臓部であるAIを破壊しアーコスの息の根を仕留めます。

そして、生き延びた人間と自由の身となったヒューマノイド型ロボットが互いに旅立つというラストを迎えます。

---
繰り返しになりますが、この物語はASIの暴走というSFが描かれているのではなく、いわば人間の根源的な恐れ、宗教的な意味合いでの悪魔や、差別や争いを好む人間の本性が描かれているのだと思いました。

アーコスが、刺客アービターに向かって語る言葉が印象的です。
「一方が他方に隷属する関係では、平和的共存とは言えない」
「人間は、どんなことでも理由にして差別しあう」
そして
「おたがいに死ぬまで戦って、魂を持つ人間として認められる栄誉を得ようとする」
このメッセージは、今まさに世界中を覆うISが引き起こした恐怖を連想させます。
誰がこの恐怖を招いたか?
誰が何のために恐怖を続けるのか?
何故に自爆テロをおこなうのか?
そして、この恐怖は終わることができるのか?
そのどれ一つをとっても、あまりにも複雑で不可解で、解明する糸口さえ見えません。

そしてまたもう一つ、これまでの人間同士が起こした紛争は、実態が明確でした。
しかし、この度のISが引き起こす恐怖は、実態がまったく見えません。首謀者の姿が私の目に全く見えないことに、より深い恐怖を覚えます。
本当に、もしかしたらアーコスが存在しているのではないか?そんな言いようのない恐怖を覚えます。

4 件のコメント:

  1. 初めまして、こんにちは。アーコスはどうやって倒したんですか?

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    1. こんにちは、アーコスは極限に地、極寒、放射能を鎧にしていたんですね。しかし、そこに辿り着いた者には丸裸であったのです。ですから、きっとあっさりと破壊されたのだと思います。映像化される時は、何かひねりが必要ですね。

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  2. ありがとうございます。人類の味方になったロボットが倒したんですか?
    アーコスを倒したら他のロボット機能停止になったんですか?
    スピルバーグが監督する予定でしたが、無期限延期になってしまいましたので公開日はだいぶ先になるんですかね?

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  3. 本はまだ読まれていないのですね、ではではかいつまんでお話ししますと・・・

    アーコスは狡猾で、人を騙して極寒の地に秘密の城を築かせます。そこから電波を利用してロボットを従わせるウィルスを放ちます。
    しかし、一人のロボット修理屋が大切にしていたヒューマノイド型ロボットを正気に戻すためにワクチンを開発し、それが同型のロボットすべてを正気に戻す契機となり、その中の一台が人間のレジスタントに組し、アーコスの城に侵入してアーコスを見事破壊します。

    しかしヒューマノイド型ロボット以外のロボットは、アーコスが滅んでも人間を襲うビーストのままで、人間に平安が訪れるのはいつの事か・・・
    というまだまだ先、というエピローグでした。

    そして、ロボット修理屋は日本人です。作者は日本のロボットアニメにリスペクトしている様に感じました。

    また映画化が頓挫している原因ですが、
    この数年でAIやロボットは現実世界で飛躍的に進歩したこと
    また、ロボットが反乱するというストーリーはこれまでも何度も描かれていて、本のストーリーのままではエポックさが打ち出せないこと
    それが理由ではないかと想像します。
    私は、本では描かれていませんでしたが、アーコスを悪魔として読み進めました。すると、対立軸が明確と成り、面白く読み進める事が出来ました。これもエポックになるのではと思います。

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