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差別の天秤

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2015年10月11日日曜日

「思い出のマーニー」、とても良かったですね

金曜日の夜、テレビで「思い出のマーニー」をしていましたね
テレビをつけると、ほとんど終わりかけでしたが、「アルハンブラの思い出」をバックに月明かりの下で二人の少女がダンスをしているシーンが映りました。そのシーンが何とも切なくて・・・感傷的で・・・
娘が丁度録画していましたので、頭から観ました。

主人公は、10代始めの少女杏奈。でも、これまでのジブリ映画のヒロインとは真逆というか、キリリとした顔立ちと少しの青い瞳がとてもチャーミングで、また写実的に絵を描く才能もありながら、不幸な自分の生い立ちや育ての親への不信から、殻を作って閉じこもり、そしていつもイライラしていてそんな自分も嫌っている。そんな女の子でした。
でもやっぱりジブリ、この映画も少女の成長物語が描かれていました。

杏奈の成長物語、それは不思議な金色の髪の少女との出会いから始まります。
杏奈は、育ての母と打ち解けられず、また喘息の発作もあって、その療養を兼ねて、夏休みを育ての母の姉夫婦が住む、北海道の片田舎の町で過ごすことになります。
その町は入り江の深いところにあって、杏奈の部屋の窓からもこれまで見た事も無いほどに美しい風景が望めます。杏奈はその町が、その町の風も空気も、そして匂いまでも一変に大好きになりました。また、おばさん夫婦もとても温容で、杏奈をまるで実の子の様に、明るく大切に接してくれます。
杏奈は、おばさん夫婦の家に来てからも、毎日一人絵道具をもって散策に出かけます。そして町の外れで、美しい湿地の風景を目にします。湿地の向こうには一軒の古い洋館が見えました。
その日の夜からです、杏奈はある夢を見る様になりました。湿地の中に浮かぶあの古い洋館の、二階にある出窓が掛かった部屋に灯りが灯り、その窓から金色の髪の少女が現れて、杏奈に向かって「私を捜して」と呼び掛けてくるのです。
杏奈が再びあの湿地を訪れると、桟橋に一艘の小舟が係留されていました。杏奈がその小舟で洋館に近づくと、あの夢の中の少女が現れて杏奈を出迎えてくれました。
そして二人は、まるで旧知の間柄であった様に、すぐに互いを認め合い、信じ合い、互いの事を語り合いました。

金髪の少女は、マーニーと名乗りました。マーニーは両親がいて、裕福な家庭に育ち何不自由ない生活をしていると話します。けれど、両親はとても忙しい人達で、いつもは婆やと双子のメイドの四人で暮らしているのと、少し寂しげに話します。
そして、今からホームパーティがあるの、父に話したから一緒に出て欲しいと杏奈を誘います。
マーニーは美しいパーティドレスに着替え、杏奈は婆やのショールを頭から巻いて花売り娘に扮してパーティルームに入ります。部屋には着飾った大勢の紳士淑女がいて大変華やいでいました。そのパーティの中心にとびきり着飾った恰好のマーニーの母と父がいました。
その時突然、婆やが杏奈を呼び止めます。婆やは杏奈を不審者と思って追いかけてきました。マーニーは杏奈の手を取って階段を駆け上り、自室に入ります。その後を恐ろしい形相で起きかけてきた婆やに布団を被せて怯ませて、その隙に部屋を抜け出して鍵を掛けました。そして二人は階下のパーティに戻ります。
花売り娘に扮した杏奈が、マーニーの母に呼び止められて幸運の一輪の花を求められ困っていたとき、暖炉の側にいたマーニーは若い男性に声を掛けられて軽やかにダンスを始めました。その様子に杏奈は少し腹を立て、一人テラスに出ました。
続いてマーニーもテラスに出てきました。不機嫌な杏奈の手を取り、マーニーはダンスの手解きを始めます。そして二人は月明かりの下でダンスをしました。
ダンスをしながらマーニーは、
二人の出会いは、二人だけの秘密に
そして、私の事は決して忘れないで
と話します。

その後、マーニーは夢の中にも姿を現さなくなりました。杏奈は不安になって何度もあの古い洋館を訪ねます。
そんなある日、杏奈は桟橋の近くで絵を描く老婦人に出会います。婦人は久子さんといい、あの湿地屋敷がとても大好きで絵を描いていると話します。でもあの屋敷は、もうすぐ新しい家族が住むことになっていて改修工事が始まるの、と教えてくれました。
杏奈がまた古い洋館を訪ねると、改修工事が始まっていました。そして洋館のあの二階の窓から闊達そうな女の子が現れて「あなた、マーニーでしょ?」と声を掛けてきました。
女の子は彩香といって、この洋館に新しく住む家族のひとり娘です。
彩香は、まるで亡霊でも見る様に杏奈を見つめ、一冊の古い日記を差し出しました。
日記は、彩香が部屋の隅で見つけた物でした。マーニーと名前が書かれていました。
綴られた日記を読むと、そこにはマーニーが話してくれた楽しかった洋館での出来事や、あのパーティの出来事も書かれていました。でも、その後のページは破かれてありませんでした。

ひと夏が終わりを迎える頃、杏奈は最後にもう一度洋館を訪ねることにしました。
夕暮れ、湿地の畔でたたずんでいると、マーニーが現れました。
マーニーはあのパーティの夜から、婆やを部屋に閉じ込めた罰として、あの部屋から一歩も外に出して貰えなかったと話します。マーニーは他にも、メイド達からイジメを受けていたとも話します。丘の上に建つ、亡霊が出るという噂の今は使われなくなった古いサイロに閉じ込められそうになったというのです。本当は、マーニーはいつもひとりで、孤独で愛されていなかったと話します。

杏奈も、これまで誰にも話さなかった秘密をマーニーに告白します。
杏奈は、ほんの小さな頃に大好きだった本当のおばあちゃんと死に別れて、他に家族もいなかったために養護施設に預けられ、そして今の育ての親に引き取られました。育ての親は、杏奈をとても大切に育ててくれました。でもある時、育ての親が杏奈を引き取って育てることで、役所から手当を貰っていることを知ったのです。もちろん、お金目当てで育てられているとは思いませんでしたが、でもそれが秘密にされていたことがとても嫌らしく思えたのです。そして、大好きだったおばあちゃんも育ての親も、またそんなふうにしか考えられない自分も、とても嫌いになったと話します。
でもマーニーは、
孤児となったあなたを、育ての親は大切に育てられたのね、
あなたは、とても愛されてきたのね、
と話し微笑みます。

杏奈は、あのサイロに行って亡霊など居ないこと、二人で証明しようと話し、サイロに向かって歩き出します。そしてサイロに着く頃にはすっかり陽は落ち、雨模様となって来ました。中に入ると古ぼけた梯子があって、杏奈がその梯子を登ると階上の隅でうずくまるマーニーの姿が見えました。マーニーは、本当はこのサイロに閉じ込められていたのです。杏奈は怯えるマーニーを抱きすくめます。そしてまた夢を見ました。
怯えるマーニーに一人の男性が近づきます。マーニーは「和彦」とその名を口にし、その男性に抱きかかえられて、この牢屋から助け出されたのです。

杏奈はその夢の後、酷い風邪を引きました。朦朧とする意識の中に、再びマーニーが現れて、あの牢屋から杏奈を残していなくなってしまったことを謝ります。でも、あの牢屋には本当はあなたは居らず、私はあの男性に助けてもらったことを告白します。そして、
あなたをひとりにした、私を許してと懇願します。
杏奈は、すべてが晴々とした気持ちになって、
あなたを許す、あなたを永遠に忘れない
と話します。

翌日、見舞いに来てくれた彩香が、破かれたページを見つけたと言って、その破かれたページとページが隠されていた絵画を差し出しました。そこには、和彦にサイロに閉じ込められたと書かれていました。杏奈は日記の秘密を悟ります。マーニーは日記にさえ本当のことが書けないほどに怯えて暮らしていたことを知りました。ページが隠されていた絵画の裏には、「久子」というサインがありました。

杏奈と彩香は、桟橋近くで絵を描く久子のもとを訪ねます。
絵の話しをすると、久子は古いそして大切な友人マーニーの悲しい物語を聞かせてくれました。
幼いころからマーニーとは、あの湿地屋敷でよく遊んだと話します。それからずっと二人はとても仲の良い友達であり続けました。
でも、マーニーは本当に不幸だったといいます。両親からは愛されず、婆ややメイドからは酷いイジメを受けていたと言います。でも、ただ一人マーニーを守ってくれる人がいました、和彦です。そして、マーニーは大人なって和彦と結婚し、ようやく幸せな家庭を持つことができました。でも、その幸せも長くは続かなかったのです。
一人子絵美理を授かってからしばらくして病気で和彦が亡くなりました。和彦を亡くした心痛でマーニーも体を壊し長い療養所生活を余儀なくされることになりました。それで、仕方なく最愛の娘絵美理を寄宿学校に入れることにしました。
数年の後、再び一緒に暮らせる様になったとき、絵美理はすっかり変わってしまっていました。理由はどうあれ、母親に捨てられたという思いで、心がとても荒んでしまっていたのです。そして絵美理は家を出ました。すぐに子供ができて結婚したといいます。しかし、それからすぐに、雪の日交通事故で、一人子を残して亡くなってしまいました。
マーニーは、絵美理の大切な一人子を引き取って、育てる決心をします。
しかし、歳を取り病弱であったマーニーは、娘を失った心痛も伴って、その一年後重い病気に掛かって亡くなってしまったと言います。

夏が終わる頃、育ての母が杏奈を迎えにおばさんの家を訪ねてきました。
そして育ての母は、杏奈を育てていることで役所から手当を貰っている事を正直に話してくれました。杏奈は母からの正直な告白を、とても嬉しく思いました。
母は、杏奈の写真を整理していて一枚の古い写真を見つけ、持って来てくれていました。
その写真には、杏奈のおばあさんの思い出の詰まった古い家が写っていました。
それはあの湿地屋敷でした。写真の裏に「マーニーの家」と書かれていました。

end

観終わって思ったのは、とても美しい話だという事です。
また、幻想的で、少し倒錯的なところもあって、揺らめく十代の少女の内面を垣間見たように思います。
そして杏奈は、これまでも沢山の愛に抱かれていたことを知り、明るく自信に満ちた少女へと変わってゆくのだろうなという安心を覚えました。
「マーニーの家」は、まるで村上春樹の短編小説「レキシントンの幽霊」に出てくる古い屋敷の様に思いました。もしかしたら今でも、真夜中になると階下の部屋に着飾った紳士淑女の幽霊が集まって、100年前と全く変わらぬ贅沢で華やいだパーティに現を抜かしているのかなと想像します。そして「アルハンブラの思い出」です。こんな幻想と現世が交錯する屋敷には、もっとも似合いの音楽だと思います。

7 件のコメント:

  1. 「100年前」というのは、どこから出てきた数字ですか? 教えて下さい。

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    1. murasakimaiさん、お早うございます。
      「100年前」というのは私の想像です。明治、着飾った紳士淑女が集い社交ダンスを興じる鹿鳴館を思い浮かべたからです。

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    2. いや違うなあ・・・、たぶん短編小説「レキシントンの幽霊」が頭の中で交差したのだと思います。

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  2. 早速ご回答ありがとうございました。
    マーニーと杏奈は、せいぜい50歳位しか、年齢差がないだろう、と思っていましたので、アニメのどこかに私が聞き落としたセリフがあったのかな、と思って、質問させて頂頂き次第です。

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    1. この映画の不思議なところは、時の進み方でしょうか
      murasakimaiさんが書かれたように、年の差50歳くらいであればしっくりとしますね。
      でも、中学一年生の杏奈が夢の中で出会うマーニーは、杏奈よりも少しお姉さんくらい。マーニーは、和彦に救出された後、家を出て和彦と一緒になったとするならば、早ければ十代で杏奈の母親絵美理を産んだのではと想像します。そして、寄宿学校を卒業した絵美理と永遠の別れをするのは十数年後、ですから、幼子の杏奈と出会った頃のマーニーは、まだ三十半ばという年齢であったのかもしれません。そう考えると、マーニーの薄幸が際立つように思います。
      もしかしたらマーニーは、それこそ百年以前の世界から和彦とともに現代にタイムスリップしたのかもしれませんね。その方が、マーニーの古風さの説明が付くように思います。

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  3. なるほど、鹿鳴館が出来て百数十年ですから、雰囲気的には符合する部分もありますね。
    タイムトリップ説を採る人も一定数いるようです。もっとも、そのうちの多くは、原作がそうだから、という理由にならない理由によるもののようですが。
    これからもムゲン(夢幻/無限)の可能性を追求されますよう。数度にわたってお邪魔致しました。

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    1. 会話楽しかったです。これからも夢幻の可能性追求します!

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