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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2013年11月27日水曜日

映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を観ました。

テレビ番組欄でこのなんとも騒々しいタイトルが目にとまりました。9.11を題材としたトム・ハンクスが出演した映画・・・ということを思い出し、観ました。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(原題: Extremely Loud & Incredibly Close 2011年アメリカ映画)

9.11テロによって父を失った少年が、父の部屋のクローゼットで古い鍵を見つけます。その鍵は、父の記憶を留める大切な鍵となり、少年はその鍵の秘密を探る旅をする。これが物語の本筋です。

少年は、9.11テロのその日、その瞬間、あまりにも重く辛い秘密を抱えることになります。それは、大好きだった父からの最後の電話に出ることができなかったことでした。
その日、少年は理由を告げられぬまま臨時早退となった学校から両親が仕事に出掛けて誰もいない自宅に戻ります。留守番電話に5件のメッセージが入っていました。メッセージを再生すると、それは父からの安否を知らせる内容でした。最初のメッセージで父が何かの事故に巻き込まれたことを理解しますが、父は冷静な口ぶりで救助を待っていると話します。しかし、新しいメッセージになるにつれて口ぶりは慌ただしくなり騒音も聞こえてきます。5件目のメッセージを聴き終えた時、父がテレビで中継されているこの大事故に巻き込まれていることを理解します。テレビには、二棟の巨大タワーから黒煙が登る姿が映し出されていました。その時、また電話が鳴りました。少年はその場から一歩も動けず電話を取ることができません。やがて電話が留守番電話に切り替わり、電話の主の声がスピーカーが聞こえました。父が何度も何度も少年の名前を呼んでいます。しかし電話は不自然に途切れます。テレビは、一棟の巨大タワーが崩れゆく姿を映していました。

少年は秘密を心の奥底に仕舞い込みます。そして鍵が入っていた小さな封筒に書かれた”BLACK”という文字を手がかりに、ニューヨークに住むすべての”BLACK”という名字の人々を訪ね歩く決心をします。ニューヨークの街には少年の恐れるモノが溢れています。それは高層ビルであり、上空を飛ぶ飛行機、身動きできない地下鉄、サイレンの音、子どもの泣き叫ぶ声・・・すべてがあの日に引き戻し少年をパニックに陥れます。ですから少年は、祖母から貰ったパニック防止のタンバリン、そしてガスマスクをリックサックに詰めて、どんなに遠くても歩いて訪ねていきました。
”BLACK”さんは、男の人であったり、女の人であったり、お年寄りであったり、少年と同じ子どもであったり様々です。そして誰もが少年を受け入れて、少年を慰め、そして慰めとしてそれぞれが抱える秘密を少年に話します。けれども鍵の秘密にはなかなか辿り着くことはできません。

そんなある日、祖母の家に新しく同居人となって住みだした老人が、少年の旅に伴うようになりました。老人は話をすることができず、少年との会話はすべて筆談で行います。ですが、何気ない仕草や癖が父と同じであることを見抜き、少年は老人が祖父であることに感付きます。そして少年は、母が外出した自宅に祖父を招き入れ、心の奥底に仕舞い込んでいた秘密を吐く様に話します。 ですが、大昔に大きな心の傷を負い、声を失い、家族を捨てた祖父には耐えがたい内容で、最後まで聞くことなく少年のもとを去りました。

少年は、もう一つの手掛かり、いつも父が持ち歩いていた小さな紙片、新聞の切り抜き広告に、”BLACK”の名字を見つけます。そして鍵の秘密が明らかになりました。
鍵は青い花瓶に入っていました。その青い花瓶は、父が新聞の広告で見つけた遺品セールで譲り受けたものでした。セールを開いたのが”BLACK”さんでした。彼にも秘密の物語がありました。確執のあった父が亡くなり、遺品をセールで処分した後、亡き父の遺言を知ります。遺言には、息子に一つの鍵を残すと書かれていました。それが青い花瓶の鍵でした。ですが、譲り渡した相手が何処の誰かも分からずに長く困惑していたのです。

鍵は持ち主に戻りました。しかし少年は、父の記憶を留める「形あるモノ」を失うことになりました。酷く落ち込んで自宅に戻ります。部屋には、いつも少年の帰りを待ってくれている母の姿がありました。
少年は、ついに鍵の話を母にしました。でも母から思いがけない返事が返ってきました。
「知ってる」
そして、母の愛情溢れる物語に接します。母は、子ども部屋に隠していた品々から、少年の秘密を推し量り、少年が訪れる家々を先回りして訪問し、少年を受け入れてくれる様、頼んで回っていました。そして毎回の少年のひとり旅を、身を切られる思いをしながら送り出し待ち続けていたことを知りました。
少年は、父の分まで愛してる、と母に告げます。母はにっこりと笑顔で
「知ってる」
と答えます。

end

映画を観終わってからしばらくして、あらためて『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』というタイトルに向き合いました。そしてこの謎掛けは「人間」を指しているのだ、と気付きを覚えました。
私たちの悲しみや苦しみ、その根幹は人間に起因する。しかしまた同時に、癒やしや救いも人間でなければ果たせない。
少年は、多くの人に出会いました。そして多くの悲しみ、苦しみ、また幸せを知りました。
そして時が来て、母と向き合います。そして母の悲しみ、苦しみ、そして愛を知りました。
とても人間の愛に満ちた物語でありました。

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