播磨の国ブログ検索

映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2013年3月22日金曜日

『ジェノサイド』読後感想


先日、「このミステリーがすごい!2012年度版」国内編ランキング1位に輝いた、高野和明さんの小説『ジェノサイド』を読みました。

タイトルとなった、ジェノサイド、集団殺戮のシーンが中程にたっぷりと詳細に描かれていて、そのおぞましさ、むごたらしさには涙が出たほどでした。
でも、それでも600頁におよぶこの長編を読み進められたのは、物語に秘められた大いなる謎を一つ一つ解読していく喜びでした。

物語のあらすじです。
-----
アメリカ大統領執務室で、人類絶滅を引き起こす新種の生物出現という報告がもたらされます。生物の真否は不明でしたが、人類絶滅の危機を予言したレポート『ハイズマン・レポート』に従って、S・バーンズ大統領は、その生物と、そして生物が出現したとされるコンゴ奥地のピグミー居留地住人をジェノサイドするために、4名の民間特殊工作員(暗殺部隊)を送る決定を下します。

しかし、この人類の最高権力者の謀さえ、ある者が、計算し尽くして企てたプランに過ぎなかったのです。このプランとは、平たく言えば、ひとりの幼子を、アフリカの紛争地域から救出し、護衛して日本に連れ帰ることでした。そのために、ある者は、4名の護衛者を選び、彼らを幼子のところに誘導するために、アメリカを動かしたのです。
ある者には、もう一つ企てがありました。それは、護衛者のリーダー、イエーガーを懐柔するために必須なるものでした。イエーガーには一人子がいます。ぞの子は不治の病に冒されて、その病気の権威であるマドリードの医師の元で高額な治療を受けるものの、後一ヶ月の命と宣告されていました。ある者は、その不治の病を完治させる特効薬を開発しようとしていたのです。その特効薬開発には協力者が必要でしたが、第一の協力者は、突然の病で倒れます、しかし協力者は、我が子に遺志を託していました。それは、薬学部に通う学生、古賀研人でした。
死んだ父から、2台の黒いノート型パソコンが送られてきます。
1台には、GIFTという名の新薬を開発するアプリケーションプログラムが入っていました。それはこの世に存在し得ないものでした。もう1台には、完璧なセキュリティーと、リアルな通信を可能とする通信アプリケーションプログラムが入っていました。

しかしこの企ては、アフリカの幼子の側にいる協力者の些細なミスからアメリカの知るところとなって、研人も、テロリストの汚名を着せられて、アメリカから、また日本政府からも追われることになります。
研人は、父が用意した隠れ家にこもり、ある者の指示を受けて、特効薬の開発に乗り出します。研人には、誰にも知られていない友人がいました。韓国からの留学生李正勲です。
そして、正勲と二人三脚で特効薬の開発を進めていきます。

アフリカでは、幼子とその護衛者を抹殺するために、アメリカが有する全地球偵察システム《ネメシス》の眼が彼らを追い回し、悪行の限りを尽くす地元の民兵組織に彼らの暗殺命令が下ります。そしてアメリカ軍の有する最強の無人殺戮兵器プレデターが彼らの命を狙います。

しかし、この謀さえ、ある者のプランの一部でありました。ある者は、高度なハッキングによって世界中の仮想空間を手の内に抑えていました。ネメシスの眼は、ある者の眼となり、プレデターの攻撃目標は、ある者の手中にありました。
そして、幼子と護衛者達は、紛争地域を脱出し、軍の輸送機を奪い、アフリカから離陸します。
数時間後、輸送機はフロリダ沖に姿を現し、そこで転向してバミューダ島に向かう進路を進みます。F22ラプター3幾がスクランブルし、輸送機の撃墜に向かいます。その命令が下ると同時に、アメリカのライフラインすべてが一斉にダウンしました。ある者のハッキングによってライフラインが人質にされたのです。それでも、S・バーンズ大統領は、愚かにも撃墜の命令を強行します。

バミューダ島沖の海域にさしかかったとき、輸送機は燃料切れを起こして、滑空状態で飛行します。墜落は間近です。その輸送機にミサイルの標準を合わせた3幾のラプターが次々と炎に包まれて爆発します。この海域にはメタンハイドレート《燃える氷》が埋蔵され、海水温の上昇などによって氷の結晶が崩壊し、飛行進路の海域だけにガスが海上に充満していたのです。そしてラプターのジェットエンジンの炎がガスに引火して爆発したのです。自然災害さえも読み切ったある者のプランの通りに物事が進んだのです。

墜落する輸送機から脱出した幼子と護衛者は、無事に日本にたどり着きます。
彼らを迎えたのは、特効薬を期日までに開発させて、イエーガーの一人子を救った研人、正勲と、初めて見る母娘です。
母は日本人の女医で、10年前にピグミー居留地から重症の妊婦を治療するために日本に移送したのですが、その甲斐なく妊婦は死亡します。しかし、妊婦の一人子は無事に出産していたのです。女医は、その子を自分の娘エマとして戸籍を作り秘密裏に育てます。エマは異常に知性が高く、やがては現代文明を陵駕する存在となります。
人類の突然の超進化は、その一人子の親からもたらされたものでした。エマの父親は、その後再婚して、エマの誕生から7年後に一人の男の子アキリが誕生します。居留地で、アキリの最初の護衛者となって成長を見守ってきたピアースは、二人目の超進化人類を目撃します。

エマとアキリは、この世でたった二人の超進化人類となりました。
彼らが神として君臨するのか、悪魔として旧人類を滅ぼすのかは分かりません。
ですが一つだけヒントがあります。それは、研人と正勲が開発を成功させた特効薬です。この薬は遺伝病の特効薬開発の試薬となるものでした。
人が近親相姦で誕生するとき、遺伝病の恐怖があります。しかし、この試薬によって、すべての遺伝病を克服することができるのです。
それは、超進化人類の増殖に欠かせないものでした。そして旧人類の存亡は、エマとアキリに委ねられることになったのです。
-----

いやぁ、まさに現代人の暗黒面がせきららに描かれていて、虚構とは思えない凄みのある物語でした。私たち現代人の愚かさは、もうどうしようもないところまで、きてしまっているのかという恐怖を覚えるとともに、それでも私たちには、微力かもしれないけれど、学び、そしてより良い未来を創造する力が残されている、という希望も与えられました。

0 件のコメント:

コメントを投稿