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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2011年6月7日火曜日

短編小説3 『鳩と戯れる男』~偽善者が登り詰められる国の怖さ~

ある国の話です。

その国は55年間、独裁者に支配されていましたが、独裁者の世継ぎが凡庸であった事が幸いし、その虚をついて民が立ち上がり独裁者を追放しました。

民達は、国をどの様に治めればよいか話し合い、話し合いの結果、一つの町、村からそれぞれ代表者を一人選んで、共和で国を治める事にしました。

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その国の中で、最も小さな村がありました。村人は10人で、みんな純粋な人々でした。しかし、村は貧しくもありました。

ある日、その村に一人の男が訪れました。その男は清潔な衣服を身につけ、肩には一羽の真っ白な鳩が留まっています。

男は物腰が柔らかく博識でした。村人から相談があると丁寧に応えました。また、村には橋がありましたが、大変傷んでいました。男は沢山の金貨を出して、その橋を立派な橋に架け替えました。
いつか村人達は、男を頼り、崇めるようになりました。

そして、男はその村の代表者になりました。

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それぞれの町、村の代表者が一堂に会して話し合う集会所は、その国で一番大きな町にありました。
1000人の町からも、100人の村からも、それぞれ一人ずつ代表者を出して、集って国のため、民のために働いていました。

その町に、男は清潔な車に乗って、沢山の鳩を伴って現れました。

男は小さな村で行った様に、他の代表者の相談に応え、金貨を与え、すぐに頼られる存在となりました。

国を治めるという事は、大変に責任が重く、時には辛い思いをしても行わなければならない仕事です。

男を頼るようになった他の代表者達は、いつしか、それぞれの町、村の代表という立場、責任を忘れて、男を崇拝するようになりました。

ある日男は代表者達を呼んで言いました。
『あなた方の責任をすべて私が引き受けましょう。』
『ただ、代表者を選んで共和で国を治める今の仕組みでは、あなた方は、今お持ちの地位も優雅な暮らしも失うことになります。』
そして
『あなた方のために仕組みを変えましょう。わたしを王にして下さい。そしてわたしとともに、この国を治めましょう。』

反対する者は一人もいませんでした。そして男は王になりました。

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男は王になって最初に国中に、あるお触れを出しました。
一冊の本を焚書にするというお触れです。

その本には、昔、独裁者を民が団結して追放した事柄が書かれていました。
そして、独裁者が掲げていた紋章も描かれていました。

その紋章には『純白の鳩』が描かれていました。

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