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差別の天秤

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2014年3月7日金曜日

朗読「海の上のピアニスト」、作りました。

今週の始めに連休があって、海に行こうか、山に行こうか、いろいろと長歩き(格好良く言うとトレッキングでしょうか・・・)の計画を立てていたのですが、先週末に風邪を引き、また足首を痛めて、あえなく家で寝て過ごす羽目になりました。

そして幾つかビデオで映画を観ました。その中でも「海の上のピアニスト」は何度も見、しまいに映画を紹介する朗読ビデオでも作ろっと、と思い立ち、そして作りました。
風邪でかすれた鼻声ではありますし、エイヤァってな調子の作りではありますが、この物語は素晴らしいのだ!という熱意はお伝えできるかと思います。
へへ、どうぞお聞き下さいって、感想を頂ければと思います。
m(__)m


映画ですが、1カ所、日本語の単語が出てきます。「音楽」という単語です。1900の育ての親ダニーの葬儀の場で、1900は初めて音楽に接します。音に不思議がる1900に、アジア系の女性がそっと「音楽よ」と囁くのです。音楽、という言葉の響きがとても良いのです。



-朗読物語 海の上のピアニスト-

何か良い物語があって、
        それを語る相手がいれば、
            人生捨てたもんじゃない…

一人の薄汚れたトランペット吹きが、唯一の財産であるトランペットをお金に換えるために楽器店に来ました。
トランペット吹きは、20ドルで売り払ったトランペットを、最後に一度だけ吹かせてくれる様店主に頼み、題名のない、でもとてもロマンチックな曲を演奏しました。
その曲を聴いた店主は、やおら一枚のレコードを取り出して蓄音機に掛けました。スピーカーから美しいピアノの旋律が流れてきました。それはトランペット吹きが演奏した曲と同じ曲でした。

店主がトランペット吹きに尋ねます。
「君はこの曲を知っているのか?誰が作ったのだ?そしてこの見事なピアノ演奏をしているのは誰かね?」
トランペット吹きが、そのレコードはどこで手に入れたのか?と尋ねると、
店主は
「明日、海に沈められる船から払い下げられたピアノを買った。そのピアノの中に隠されていたのだ。割れていたが、貼り付け修復したのだ。」と話します。
店主が指さした先にはとても懐かしいピアノがありました。
トランペット吹きは、彼しか知らない秘密の物語、彼の中で伝説となったあるピアニストの物語を語り始めました。

---

1900年、ヨーロッパからの移民を乗せた豪華客船ヴィクトリア号がニューヨークに着きました。
乗客が降りた船内、一等乗客用の社交室にあるピアノの上に、一人の赤ん坊が置き去りされているのを船員が見つけました。
赤ん坊を見つけた船員は、移民局に届けず、赤ん坊を船の中で育てる事にしました。
そして船員は、1900年に生まれた赤ん坊だからと、NINETEEN-HUNDRED(以下、1900)と名付けます。

1900には記録が何一つありません。国籍も戸籍も誕生日さえありません。
ですが船の中で、船員達に愛されて1900はすくすく成長しました。

1900は、8才になったある日、進入を固く禁じられた場所に入りました。
そこは貴族やお金持ちが着飾り過ごす一等乗客用のキャビンです。
そして1900は、社交室で華麗にピアノ演奏するピアニストに釘付けとなりました。
その日から1900は夜な夜な社交室に忍び込んではピアノを演奏する様になりました。
それは見事な演奏で、いつしかキャビンの噂となり船長の耳にも届きました。
船長は1900の演奏を見て、船の専属ピアニストにすることを決めました。

そして数年が経ちました。
1900は青年に成長して「海の上のピアニスト」となりました。
その頃です、ひとりの若きトランペット吹きがバンドマンとして船に乗り込んできました。
トランペット吹きはマックスと名乗ります。
ジャズ演奏がとても上手でした。
ですから、バントの演奏中にも関わらず突然に指揮者を無視して即興演奏にふけってしまう1900とはすぐに打ち解け、とても良い友だちとなりました。
1900はどんなジャンルの曲でもピアノで演奏できました。
それだけでなく乗客のひとり一人の人生を見透かして曲にして奏でることも出来ました。


そんなある日、当代一のジャズピアニストが、1900に即興演奏の対決を挑んできました。
そして船上で世紀の対決が始まります。
先に演奏したのは当代一のジャズピアニストです。
ジャズピアニストは見事な演奏で観衆を魅了しました。
そして演奏が終わると、1900を挑発しました。
でも1900には人と争うという気性がありません。彼にとって演奏とは、美しい曲を奏でるすべでしか無かったからです。
ですが、マックスが1900の勝ちに全財産をつぎ込んでいたこと、またジャズピアニストの見事な演奏に刺激され、ジャズピアニストを上回る神がかりな演奏を披露して、世紀の対決を制しました。

1900の名声は、今や船外にも鳴り響く様になりました。
でも1900は船の外に全く興味がありません。
しかし、ある航海で出会った乗客から「海の声」の話を聞き、船上では聞くことが出来ない、陸の上でしか聞くことが出来ない「海の声」にとても興味を抱きます。
その乗客は、昔農夫でした。
ですが、ある年の干ばつで農地は廃れ、妻と四人の娘も病気で失いました。
農夫は生き残った末の娘を残し失意の旅にでました。
その失意の旅の途中で初めて海を見ました。
それは稲妻に打たれるほどの衝撃でした。
海が怒号で叫んでくるのです。
大きな力強い声で、繰り返し繰り返し。
「人生は無限だ!分からんのか、愚か者!」
そして農夫は、人生を最初からやり直す、決心をしました。


1900は、船上でレコーディングすることになりました。
彼の音楽は金になるとレコード会社が乗り込んできたのです。
1900はピアノの前に座り、船窓から見えるデッキの風景を眺めていました。
ひとりの少女が窓に映ります。無垢な少女の仕草に、彼は生まれて初めて淡い恋心を覚えます。
そしてとてもロマンチックな曲を奏でました。
レコーディングは大成功で、一枚のレコードの原盤が出来上がりました。
でも1900はそのレコードの原盤を少女にプレゼントすることに決めました。
しかし、1900は少女に告白する愛の言葉を持ち合わせていませんでした。
そして少女にプレゼントを渡すことさえ叶いませんでした。
ですが、少女が船を下りる直前、短い会話をすることが出来ました。
そして少女が、かつて1900に「海の声」の話をした男の娘であることを知りました。

それから何度目かの航海の後、1900は船を下りることを決心しました。
少女を訪ね、そして二人一緒になって「海の声」を聞くつもりです。
マックスは、自分の大切なキャメルのコートを1900にプレゼントしました。
船の仲間全員が1900との別れを惜しみます。
そして遂に1900が船を下りる日が来ました。
ニューヨークの摩天楼に向かって1900はタラップを降りていきます。
しかし、タラップの中程で歩みを止めました。
そしてしばらく街を見つめると、再び船に戻ってしまいました。
そして二度と1900が船を下りることはありませんでした。

月日が流れ、マックスが引退して船を下りることになりました。
それからまたしばらくして戦争が始まり、船は軍の輸送船に徴用されることになりました。

戦争が終わりました。かつてビクトリア号と名乗っていた船は傷み、廃船となる事が決まりました。

---

トランペット吹きは、店主に一つの物語を語り終えた後、明日沈められる船に向かいました。
今もきっと船の中に身を潜めて生きている友人を探し出し、船の外に連れ出そうと思ったのです。
そして船主に事情を話し、船に乗り込みました。
でも、何度呼びかけても、友人は姿を見せてはくれません。
トランペット吹きは、店主にレコードと蓄音機を借りて、船の中で友人がかつて演奏した曲を流しました。
それでも姿を見せてはくれませんでした。
諦めて船を去ろうと立ち上がった時、暗がりの中に人の気配を感じました。
彼でした。
彼は姿を現しました。
タキシード姿で、今も若きピアニストのままでした。
彼は言いました。
「僕は、船の外に出る事ができない。」
人生には限りがある。それはピアノの鍵盤と同じで、始まりがあり、終わりがあるということだ。
僕はピアノの88の鍵盤でなら、無限の曲を奏でること出来る。
そして船の中で与えられた人生に満足している。
でも、船の外は果てしが無い。
まるで無限の鍵盤の様で、僕には演奏ができない。
無数の人生に通じる道を僕は選ぶことが出来ないのだ。

そして彼は、船と共に逝くことをトランペット吹きに告げました。
二人は固く抱き合い、そして別れました。


トランペット吹きは、船が沈むのを見届けた後、再び楽器店を訪ねました。
そして、友人を救えなかった事を話しました。
最後に店主が尋ねます。
「君は、誰がピアノにレコードを隠したか知っているのかね?」
トランペット吹きが、自分だ、と応えると
「では君は、とても良いおこないをしたのだよ」と慰めました。

店主は店を出ようとするトランペット吹きを呼び止めます。
店主は、トランペット吹きが店に残したトランペットを抱え
「これは君の大切な品物だろう。美しい話を聞かせてくれたお礼だ。」と言って、トランペットを手渡します。
トランペット吹きは大きく一礼し、店を出、通りの向こうへ歩き去って行きました。
その後ろ姿を、店主はいつまでも見送っていました。

-おわり-

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