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映画『オッペンハイマー』を観ました。

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2012年4月11日水曜日

純愛ファンタジーの佳作『ある日どこかで』(Somewhere in Time)


リチャード・マシスンという作家をご存じでしょうか?
スティーヴン・キングと並ぶホラー小説の大家で、その主要な作品は名だたるホラー映画の原作となっています。
そのマシスン作品に、”純愛”をテーマとしたとても奥深いファンタジーが二作品あります。
『ある日どこかで』(Somewhere in Time) 1975
『奇蹟の輝き』(What Dreams May Come) 1978

今日は、『ある日どこかで』を紹介したいと思います。
因みに、あらすじは映画を元に記述します(原作と映画ではストーリーに若干の差異があり、そして映画の方がより記憶に強く残っているのです。でも、もしかしたら原作と映画のストーリーがごっちゃになっている可能性もあります)

『ある日どこかで』

ハリウッドで脚本家として成功したリチャード、しかし不治の病を宣告され、仕事も何もかも放り出して当てもなく彷徨います。そして浜辺に立つ19世紀の香りを留めたグランドホテルに逗留しました。
ホテルには、由緒ある劇場と小さな展示室がありました。
そしてリチャードは、展示室に飾ってあった1枚の古い写真、その写真に写っている美しい婦人に恋をします。彼女の名はエリーズ。1世紀近くも前に人気を博した舞台女優です。
リチャードは、エリーズの事を調べ尽くすうちに、彼女とのただならぬ関係を予感します。
若きリチャードが脚本家として成功する切っ掛けとなった賞の受賞パーティーに、年老いたエリーズが出席していたのです。彼女はその夜、グランドホテルの一室で短いメッセージを残して亡くなっていました。
『私の処に戻って』
リチャードはエリーズへの情愛を一層深め、そして時間を越えて彼女に会いたいと願います。
リチャードは、当代一の理論物理学者が唱える『思念の時間』という論文を目にします。そこには、思念としての時間には、
現在を流れる『一方向の時間』と、
過去、現在、未来を自由に行き交う事が出来る『時間の縁』があると論じられていました。
そして『時間の縁』を移動するヒントとして、空間、そして身の回り品全てを移動したい時間、世界のモノに置き換えて、その空間の中で、移動したい時間、世界を強く意識して、思念を飛ばす事、と書かれていました。
リチャードは、身の回り品全てを、エリーズが輝いていた20世紀初期の様相にして、身に纏って、彼女と特に縁の深いグランドホテルの一室を借り切って、何日も何日も閉じこもって、『エリーズのもとへ!』と念じ続けました。

そしてある瞬間、それは叶いました。
リチャードは、20世紀初頭の世界に降り立ったのです。
リチャードは、部屋を抜け出しエリーズを探します。
エリーズは、その日の夜の舞台の成功から、人気女優へと駆け上ったのでした。
でもリチャードに出会う前の彼女は、父の様に自分を過保護にして、また自由を許さぬマネージャーのロビンソンから逃げ出したかった、美貌と卓越した演技力の才能で幾ら観客を魅了しようとも、女優である事に不安を抱いていたのです。
そんなエリーズには、一つの予言がありました。
今日、『運命の人』と出会う、という予言です。
そしてリチャードと初めて出会った時、エリーズは思わず
『あなたなの?』
と口をつきました。
その後リチャードは、ロビンソンの堅いガードにもひるまずに、エリーズに近づき、時にユーモラスに、時にロマンチックに彼女を賞賛し、そして恋心を語ります。しかしそこには切実さがありました。エリーズにとってリチャードの好意は、とても新鮮で、そしてとても刺激に溢れていました。
リチャードとエリーズは疾走するが如くに引かれていきますが、でも別れの時間が刻一刻と近づきます。

その日の夜、エリーズは、最高にユーモラスに、そして最高に魅力的に舞台を勤め上げました。記者や評論家からも大絶賛を受け、東部から大きな契約が舞い込みます。
ロビンソンは、大きなチャンスをモノにするために、そして危険なリチャードから一刻も早くエリーズを離すために、深夜の汽車で移動することにしました。
万一の為に、リチャードを襲って、海辺の小屋に縛り付けもしました。
そして翌日、傷心したリチャードの元に、エリーズが現れました。ロビンソンから事の顛末を聞かさたエリーズは、ロビンソンを振り切って、リチャードの元に戻ってきたのでした。
そして、グランドホテルの一室で、愛を深め合う時間を過ごします。
それはまるで旧知であったかの様な、確かめ合う時間でありました。
そして、ふたりのこれからの事を話している最中、リチャードは上着の内ポケットに異物を見つけました。取り出すとそれは、リチャードが生きていた時代の硬貨だったのです。
一瞬にして思念の旅は終わりを告げました、リチャードは現代のひとりぼっちの客室のベットに横たわっていました。

リチャードは坂を転がる様に衰弱し、そして死期が訪れました。
幽体となったリチャードのそばには、微笑みを浮かべて向かい出でた若いエリーズの姿がありました。

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この小説を原作とした映画『ある日どこかで』(Somewhere in Time)は、1980年の作品で、主演を演じたのは、
クリストファー・リーヴ(リチャード・コリアー役)
ジェーン・シーモア(エリーズ・マッケナ役)
クリストファー・プラマー(W・F・ロビンソン役)
クリストファー・リーヴは、当時『スーパーマン』の大成功で大ブレークしていたのにも関わらず、制作費そして出演料もほとんど出ないこの作品に進んで参加し、共演者そしてスタッフと寝食を共にし裏方もこなして、作品作りに取り組んだ、という記事を読んだ事があります。
映画は、公開当時、酷評され、また興行的にも失敗作となりますが、その後のリバイバル上映などから火が付き、熱狂的なファンを獲得、そして現在では純愛映画の佳作として、多くのファンに愛される作品となっています。
映画の撮影は、ミシガン州マキナック島のグランドホテルで行われました。そして以来、毎年10月には、グランドホテルに出演者そしてファンが大挙集って映画を讃えるパーティーが開催されているそうです。

最後にサウンドトラックの話。
リチャードとエリーズが、急速に接近する野外でのデートシーンを格調高く盛り上げるのが、ラフマニノフの『パガニーニのラプソディー』です。
観おわって何十年も経ちますが、そのシーンを思い浮かべる時、ラプソディーが頭の中で流れます。また街角でこの曲が流れていると、この映画を思い出します。
映像とメロディーが見事にマッチしていたという事でしょうね。

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DVDは、現在新品は発売されていないようです。ですが中古品は出品されています。
また、レンタルもされています。探して手にして、どうぞ鑑賞して下さい。きっと切なくも優しい気持ちを抱かれる事と思います。

原作では、リチャードの弟がストーリーテラーとなって物語が進行します。『ある日どこかで』の深遠なる『思念の旅』を追体験するならば、原作の熟読を、おすすめします。


『ある日どこかで』日本語ファンページ
http://www.ueda.ne.jp/~peg/

『ある日どこかで』映画パンフレット掲載ページ
http://blog.livedoor.jp/donsanbonsan/archives/3708582.html

ある日どこかで Somewhere in Time テーマ曲と名場面

Somewhere In Time (orchestral version)


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