このエピソードには3つの重要な、古くて新しい発想が実現の肝となっています。
①自分がしたい事を、知恵を絞って行動し実現する
②相手と信頼関係を築き、そして勇気を持って相手の胸襟に飛び込む
③相手は見返りを求めず、寛容さ、親切心で無償のサービスを提供する
『自立心』『行動力』『我を通す』、アメリカ魂だからできたエピソードでしょうか。
日本でも、数十年前まで『無銭旅行』、いわゆる見知らぬ人々の善意を頼りに、旅をするという若者がいました。
彼らの信条は、『金』ではなく、自分が出来うる精一杯の行動で、『善意』に報いるという事でした。
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書籍『SHARE ~What's Mine Is Yours~』、日本語直訳題は『共有 ~わたしのものはあなたのもの~』、本書には副題として『共有からビジネスを生み出す新戦略』と書かれています。
19世紀の産業革命、20世紀初頭の世界大恐慌、二度の世界大戦を経た後、アメリカは産業の振興、内需の拡大を図るため、新しいビジネス・プロモーション手法『広告(PR:Public Relation)によって消費者の購買欲を煽る、フロイトの心理学論をビジネスに応用した手法』と、カード決済手法(一般市民が信販会社が発行するカードを持ち、信用取引で、先買い・後払いを行う)、そして新しいマスメディア(テレビ)の登場ともあいまって、特に耐久家電商品(冷蔵庫、洗濯機、電器調理器)そして乗用車が各家庭に行き渡りました。また、当時は、『持ち物によって人が評価される』時代でもありました。
これ以前のアメリカの企業人・成功したビジネスマンは、アメリカの文化的成長のリーダーであり、私財を投げ打って、アメリカの教育や文化事業の育成に貢献しました。
しかし、個人主義が顕著になり、市場経済、拝金主義が蔓延するとアメリカの産業・経済は内部崩壊を始めました。そして、2009年アメリカの住宅バブルは破裂し、金融危機が世界を揺るがす事になりました。
『シェア』では、『過剰消費の20世紀』から脱却し『コラボレーション消費の21世紀』を標榜しています。
そして、人は
・その人がどの様な人間関係を築くか、どう接するか
・属する社会的なコミュニティは何か
・どういう信条を持ち、どういう 行動・アクセスを行うか
・何を誰と共有するか
・不要なものとして何を手放すか
で評価される時代となるだろう、と書かれています。
また本書では標榜する『コラボレーション消費』を3つのモデルで説明されています。
①プロダクト=サービス・システム
②再分配市場
③コラボ的ライフスタイル
『プロダクト=サービス・システム』は、
『所有』より『利用』で、『利用』した分だけ対価を支払うという発想のサービス・システムです。
ライドシェア(自転車の貸し出し)、カー・シェアリング(日本でもオリックスなどが都市圏でこのサービスを始めています)
『再分配市場』
中古品を廃棄ぜず、『修理』『修繕』して『再利用』、また、求める人・必要とする人に『再販売』する。
・リデュース(Reduce)…廃棄物の発生抑制
・リユース(Reuse)…再使用
・リサイクル(Recycle)…再資源化
・リペア(Repair)…修理して再利用する
・リディストリビューション(Re-distribution)…再販売
『コラボ的ライフスタイル』
目に見える物と物との物々交換に留まらず、様々な目的を持つ人達が、『時間』『空間』『技術』『お金』など、目に見えにくい資産も含めて、『共有』と『交換』を持続的・発展的(サステイナビリティ Sustainability)に行う
また、こらまでの『コラボレーション消費』の実例から、成功事例に共通する4つの原則が挙げられています。
①クリティカル マス(critical mass)
②余剰キャパシティ
③共有資源の尊重
④他者への信頼
です。
『クリティカル マス』
システムが自律的に維持するために十分なはずみ・勢い(モメンタム Momentum)があることを表す、社会学の用語。
ある商品やサービスが、爆発的に普及するために最小限必要とされる市場普及率。
欠かせない要素として、
・消費者の選択の多さ
・コアなファンやリピーターが最初に集まる
・彼らの評価が『社会的承認』や『おすみつき』を与え
・新しいモノ好き(early adopter)だけでなく、
・普通の人達が、これまでと違う行動を取るときに感じる心理的な壁を乗り越えることが出来る
『余剰キャパシティ』
自動車や電動ドリルなどのモノに限らず、目に見えにくい時間やスキルや空間、或いは電力などの生活必需品(コモディティ commodity)にもあてはまる。
インターネットのソーシャル・ネットワーク機能がなければ、求め合う人同士の、マッチングも規模の急速な拡大もあり得なかった。
『共有資源の尊重』
『共有資源』というコンセプト。つまり人間が全員で所有する資源を示すこの言葉の語源はローマ時代に遡る。
1968年微生物学者ガレット・ハーデンは、サイエンス誌に寄稿した論文『コモンズの悲劇』の中で、人間は際限なく取りすぎてしまう、そして『共有資源の自由は全員を滅ぼす』 と断言した。
『インターネット著作権の権威』と呼ばれるレッシグは、歌や画像、知識や映像といったクリエイティブなコンテンツのシェア、リミックス再利用を促す必要があると感じた。
そして、2002年、Creative Commonsを立ち上げ、シェアやコラボレーションを促すための著作権ライセンスを無料で提供しはじめた。
『ネットワークの拡大、コラボ消費に参加する人は、たとえそのつもりがなくても、それぞれが他の参加者に価値を提供している。→これがネットワーク効果だ』
そして、これからの持続的なコラボ的サービスシステム発展のための4つの重要な要素として
①利用の円滑さ
②サービスの複製可能性
③サービスへのアクセスの多様性
④コミュニケーションの強化
と説いています。
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『共有』や『交換』は、もともと物の豊かで無かった時代、私たちは地域のコミュニティで、互いに助け合う手段として行っていました。
そこには『共に生きる』『信頼する』『相互扶助する』という理念が根底にあったと思います。
日本の諺に『情けは人のためならず』があります。『よい行いをすれば、巡り巡って、いつか自分に良い報い来る』という良き教えです。
欧米人にとっての『共有』や『交換』は、もう少しドライです。ドライだからこそ、『コラボレーション消費』運動(Movement)の中で、自分の評価・評判を高めるために、ほとんどの利用者が、『P2P Person to Person』、コミュニティやシステムを通じて取引する相手に最上のサービスを提供し、そして、コミュニティやシステムの中で『よい評価』を維持し、コミュニティやシステムを有利に使い続けられる様に活動します。
2000年以降、企業の広告スタイルがインターネットの利用で様変わりしました。テレビでも新聞広告でも、HPアドレスとともに、検索アイコンが表示される様になりました。
それでも企業から消費者への一方向の情報発信形態は変わりませんでした。
しかし、2009年以降、TwitterやFacebookの日本上陸によって、マスメディアを利用した広告から、消費者の口コミ、消費者の肯定的な情報発信を促す為の、双方向コミュニケーションを重要視する形態に変わってきました。
ここで、もう一つ重要なキーワードがあります。『情報リテラシー』です。
そこかしこに氾濫する情報に適切にアクセスし、有用な情報を検索・選択し、内容を理解して有効に活用する、平たく言えば『情報を有効に利用する能力』が重要になります。
IT(最近ではICTと呼ばれています、情報・通信・技術の事です)、コンピュータやインターネットなどと混同しないで下さい。
あくまでも『情報リテラシー』で指す『情報』は、情報そのものです。情報のもとは、新聞かもしれないし、雑誌かもしれない、テレビ、ラジオかもしれないし、口コミかもしれないのです。
ICT(Information and Communication Technology )、パソコンやインターネットを利用して、情報を『得る』『加工する』『付加価値をつけて発信する』『共有する』為の手法、ツールです。
また、日本発のSNSといえば『Mixi』、携帯電話アプリ『GREE』『モバゲータウン』が代表格ですが、その発想としては、企業が提供する仮想空間の中で、利用者は匿名で、アバター(なりたいモノになりすまして)として仮想空間の住人として活動します。
Facebookに代表されるアメリカから上陸したSNSは、実名主義を取っています。匿名ではなく、実名で、自分の略歴をプロフィールに公開します。そしてコミュニティに参加したり、コミュニティを作りコミュニティを拡大していきます。
実名主義は、日本では『個人情報の保護』及び『悪用』のためにリスクを冒さない事が前提で物事が始まるために、当初は浸透は難しいと考えられます。世界で5億人以上が利用するFacebookさえ日本ではまだまだ利用者が少ない事を見れば、それは明らかです。
ですが、よく考えてみて下さい。一昔前、地域社会のコミュニティーの中で、誰もが皆のことを少なからず知り、それがコミュニティーの安定と犯罪抑制に繋がっていたことを思い出して下さい。
現代の犯罪の多くは、携帯電話やパソコンのメールなどコミュニケーションツールを悪用し、匿名やなりすましで悪行を行います。
私は、『個人情報保護』が、悪意在る者に逆手にとられて『悪意在る者』の隠れ蓑となっている、そう感じてしかたがありません。
この大書『シェア』では、人は、『大量消費の時代』においては、物を持つ事で評価され、標榜する『シェアの時代』では、その人物を知る、回りの人の評価が重要視されると書かれています。
日本人も『個人情報』という履歴データ・個人データでその人を測る、評価するデータ重視・データ偏重主義と決別し、その人自身、等身大の人柄を知って(つまり付き合って、もしくは友だちの友だちとして)、現在の生身の人間を評価する事に、回帰しなければならないと思います。
インターネットは、今後、実名主義が主流となり、提供されうるサービスはすべてその理念のもとに作られ、インターネットを利用する世界では、現実社会と仮想空間が相互乗り入れする、私たちがアバターでは無く、無限の仮想空間を新しい人間のフロンティアとして活用する時代となるでしょう。
リスクにかまけて、踏み出さなければ、日本はさらに厳しい立場に立たされます。置いてきぼりにされます。
『技術立国・日本』『物作り立国・日本』だけではもう立ちゆきません。
日本人としての共通の『誇り』『理念』『悪行に手を染めない』という教育を実践する事が、『日本再生』の柱であり、子どもたちも、そして大人も学び直し、日本人としての『自信』を取り戻し、これからの世界で『共生する』為の様々な活動に喜びを持って参加し働く、その方向に舵を切り、海図無き海原を『逞しさ』『英断さ』『優しさ』を持って、進んでいく事が大事だと思います。
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p.s.
アメリカ発の様々なインターネットを便利に利用するソフトウェアやサービスのほとんどは、たとえばAppleやYohoo!、Googleもそうです、優秀な学生の柔軟な発想とガレージからでもビジネスをスタートするというフロンティアスピリット、またFacebookの様に学生の遊びの中から生まれたものが多いです。何を意味するかというと、『柔軟さ』と『失敗を恐れない』、そして『飽くなき楽しさ』です。
日本では、仕事に対して『楽しさ』『遊び心』というのは、余り尊ばれる事はありません。
ですが、本来、『楽しさ』『遊び心』が無くて何が進歩を推し進めるのでしょう。既成のルールの中で、指示された事だけを行うのでは無く、さらなる進歩のために常に学び、『ルール』も当事者がどんどん見直し洗練すべきです。『慎重』であるべきですが『鈍重』はすべてを台無しにしてしまいます。多少の『軽率』さがあっても『俊敏』さの方が面白い、日本がそうなる事を強く願います。
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[書籍情報]
『SHARE』What's Mine Is Yours
『シェア』〈共有〉からビジネスを生み出す新戦略
著者 Rachel Botsman / Roo Rogers レイチェル・ボッツマン / ルー・ロジャーズ
監修・解説 小林 弘人
訳 関 美和
NHK出版 2010/12/20 第1刷発行
Rachel Botsman
ビジネス・コンサルタント。最新のインターネットとテクノロジーを通じたコラボレーションやシェアの可能性と、それによってビジネスや消費、そして人々の生き方がどの様に変化するかについて、各地でコンサルタントや執筆、講演を行っている。
オックスフォード大学で美術の大学院課程に学ぶ。現在、ブランド力、イノベーション、サステイナビリティといった分野を横断する形で、世界中の企業のコンサルティングを行っている。
UliriamuJ.Clinton財団の前理事長。イギリス、アメリカ、アジア、オーストラリアで活躍。
Roo Rogers
アントレプレナー。ニューヨークのベンチャー会社Redscout Ventures代表取締役。起業家として現在OZOlab,OZOcat,Drive Thru Pictures,UNITY TV,Weniteの5つのスタートアップ企業を成功させる。
企業戦略およびベンチャーキャピタルの専門家であり、同時にメディア、鵜入、飲料といった消費セクターでも活躍。
コロンビア大学文学士号を、ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジで経済学修士を所得。現在ニューヨーク在住。
『シェア』〈共有〉からビジネスを生み出す新戦略 紹介ページ
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