それは、屋号に播磨灘に面する山陽の地名の中でも特に美しい響きのある”朝霧”の文字が入った”朝霧堂”という名の和菓子屋でした。
おもむきのある狭い間口の店先には、平たいケースに出来たてほかほかの団子やくず餅、わらび餅が並んでいます。
くず餅とわらび餅は、どちらも容器の中にどろんとした半透明のものが入っていて見た目区別が付きません。でもわらび餅の方がどちらかといえば甘さ控えめと思い、忙しくされていた店の奥さんを呼び止めて、わらび餅を三つ注文しました。店先には一つしかありませんでしたが、奥さんは裏にありますと、店の裏に取りに行かれました。
店先でしばらく一人で待っていますと、職人のご主人と一緒に出てこられ、「今作ってますんで、30分ほど掛かります」と言われ、ぶらぶらしながら30分待つことにしました。
そして待つこと30分、作りたてでほかほかのわらび餅を三つ容器に詰めて貰いました。後、合流した妻の希望で三色団子も一つ買いました。
それから国道を通って小一時間ほどで兄宅に着きまして、さっそく作りたてぬくぬくのわらび餅を食べようと話をしますと、「アホか、わらび餅ちゅうもんは冷たくして食べるもんやろう」と言われ、あっ、そうかと思い返すととともに、でも兄の一言に無性に腹が立ち、結局わらび餅は一口も食べずに、その後、兄宅を後にしました。
家には、わらび餅一つと団子を一つ、土産に持って帰りました。
そして、家に帰って、まだほんのりぬくぬくのどろどろわらび餅を食べました。
ほんのり甘く、とても美味しゅうございましたが、
でも食べながら、わらび餅はやっぱり、少し冷やして、適当な大きさに切り分けて、きな粉を上品にまぶして、爪楊枝で一つひとつ口に運んで、食べるのが夏の風情のある食べ方やなぁと思った次第です。
きっと賢い兄ならば、今頃そうして食べているだろうなと思います。
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