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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2015年2月10日火曜日

短編小説4 『三人の王の物語』 ~誰が生き残るのか?~

トマ・ピケティの「21世紀の資本」が、とても話題になっていますね。
本屋を覗くと、6千円近くする高額な本ですが、売り切れていました。
目についたのが、関連本の多さです。
また、テレビのニュースショーでも、よく取り上げられています。タレント化した経済評論家達が次々にピケティの「21世紀の資本」を解説してくれますので、買って読まなくても、どんな内容かがよく分かります。

ピケティは、富を持つ者はさらに肥え、持たざる者はいつまでも持たざる者のまま、という事象を学術的に明らかにしたそうですね。
でも先週の「たかじんのそこまで言って委員会」で、金美齢さんがズバリと仰っていたように、そんなことは誰も昔から知っている!という意見が庶民の思いだと思います。

そんな思いと、昨今の規制無き自由主義の躍進への警報を込めて、拙いショートショートを作ってみました。

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三人の王の物語

その国は、世界に一つの国でした。
美しい国です。気候は温暖で、空気も水も澄んでいます。
土地は肥沃で、一年中おいしい作物が育ちます。
国民は、農作業に勤しみ、工作を嗜み、また品物を交換しながら豊かな生活を営んでいました。

その国は、一人の王様が治めていました。
王様は、国民から収入の十分の一を税金として徴収し、そのお金で、国民のために学校や病院を建てました。
この様に、王様はいつも国民の幸せに心を砕いていました。
ですから、そんな王様を国民はとても尊敬し敬っていました。

王様には、世継ぎとなる三人の子供がいました。
一番上のヤシンは、自分の国をもっと大きくしたい、強くしたいという夢がありました。
ですから、どうしたら、もっと大きくできるか、強くできるのかを、いつも考えていました。
真ん中のナマケは、今の国に不満がありました。税金を徴収しても、そのお金は国民のために使われるだけで、王様は贅沢しません。それが不満でした。
ですから、どうしたら、もっと自分が贅沢できるのかを、いつも考えていました。
一番下のシンシは、王様をとても尊敬していました。そして、王様の様に国民のために働ける王様になりたいという夢がありました。
ですから、王様の様になるために、一生懸命勉強しました。

月日が流れ、王様が年老いて、王座を降りることになりました。
王様は、一つの国を三つに分割し、三人の子供に分け与えました。

そして、新たに三つの国が誕生しました。

ヤシンの国では、ヤシンが富国強兵を掲げます。そして国民からこれまでよりも重い税金を徴収し、そのお金を産業の振興に投資して、強い産業を育成し、ヤシンと同じ野望を抱く資本家を作ります。そして、他国に貿易を申し入れ、世界制覇を企みます。

ナマケの国では、ナマケが放蕩不羈を掲げます。税金はこれまで通り徴収しますが、そのお金はすべてナマケの懐に入りました。ナマケは、楽しきこと、面白きこと、そして贅沢なことにお金をどんどん使いました。ですから、国民も楽しきこと、面白きこと、贅沢なことに夢中になって、真面目に働かなくなりました。そのために美しい国は廃れ、ナマケの国は、どんどんと貧しくなっていきました。やがて、先代の王様が治めていた頃の国の姿は、もうどこにも見当たらなくなりました。

シンシの国では、シンシが慈愛友愛を掲げます。シンシは、先代の王の美徳をそのまま継承し、国民に心を砕くことに努力しました。そして同時に、国民にも慈愛友愛を道徳として教育しました。シンシの国の始まりは、穏やかでした。先代の王の時代と何ら変わることがなかったからです。ですが、年月が経つにつれ、ヤシンの国やナマケの国に感化される者が現れました。そしてシンシの政治に批判を揚げるようになりました。

ヤシンは、まずナマケの国に貿易を申し入れました。ナマケの国にはない、楽しい商品、面白い商品、贅沢な商品を披露して、またその裏では、ナマケをはじめ、ナマケの国の重鎮や官僚に賄賂を贈り、すっかり味方に取り込んで、ヤシンにとってとても有利な契約を結びます。続いてヤシンは、ナマケの国に巨額を投資して、工場を作ります。安い賃金で工員を雇い、厳しくこき使い、安くて楽しく面白い商品を大量生産しました。それをナマケの国やヤシンの国の人々に売りさばき、ヤシンとヤシンの資本家は、どんどんと富裕になりました。
しかし、ナマケの国の大勢の国民は、とても困窮するようになって、ナマケとその一派に恨みを募らせるようになりました。そしてある日、貧しい国民がナマケ打倒に蜂起して、あっというまにナマケは打倒されました。

ヤシンは、次にシンシの国に貿易を申し入れました。しかし、シンシは国民を守るため不公平な貿易を拒否します。ヤシンがナマケの時と同様に、賄賂で口説き落とそうとしても、賢く愛国心に満ちたシンシの国の重鎮や官僚は、ヤシンの罠に落ちません。
ヤシンは奥の手を使います。ヤシンの国の工作員が密かに、ヤシンの国に感化されたシンシの国民と結び付き、シンシやシンシの国の重鎮や官僚を貶める悪行を行います。
脅しや欺きから始まって、やがては破壊工作を実行し、シンシの国の平和を脅かします。
そして機の熟すのを待って政権打倒を工作し、見事にシンシを打倒します。

ヤシンの世界制覇は成しました。
しかし、今やヤシンは子飼いであったはずの資本家の操り人形となっていました。
ヤシンには夢がありました。ヤシンの国が大きく、そして強くなることでした。
しかし、今や富裕となったのは一握りの資本家だけで、大勢の国民は、まるで奴隷の様でした。ヤシンには、もう一つ、密かな夢がありました。先代の王と同じく、国民から尊敬され敬われる王となる事でした。
しかし、もうその夢は永遠に叶えることはできません。

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