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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2012年1月24日火曜日

ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン』読書感想 その2


私たちは、何か手詰まりに陥ったとき『ショック療法』として思い切った手立てを講じる。荒療治である。しかし民主国家においてそれは、万民が痛みを分かちあい、その結果、万民に恩恵をもたらすものでなければならない。

だがしかし、ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派の『急進的な新自由主義経済』がもたらすそれは、一握りの支配者の経済的成功と富の独占でしかない。
ナオミ・クラインはその著書『ショック・ドクトリン』の中で、独裁者そして自由経済原理主義者の『ショック療法』は、本当の惨劇、『格差』『不平等』『荒廃』しか生まぬことを物語っていた。

そして著書の終章にて、『ショック・ドクトリン』が実行された被災地から、民衆の手による復興が始まった、と希望の道筋も書かれていた。
一つは、南米で生まれた『米州ボリバル同盟』である。
その目的は
米国主導の競争原理に基づく市場優先の新自由主義に対抗し、『真のフェアトレード(公正貿易)の絶好のモデル-すなわち、各国がもっとも得意とする製品やサービスを提供する代わりにもっとも必要とするものを手に入れ、取引価格はグローバル価格に左右されない』を構築することである。

もう一つは、2004年スマトラ沖地震・津波被害からのタイ沿岸地域の被災者自身の手による復興である。同地震によりスリランカでは沿岸地域で被災した住民が著しく居住権を侵害されたのとは対照に、タイでは被災住民がいち早く居住権を主張し、自ら国と交渉し、復興に向け活動した。タイの被災地連合は次のように主張する。
『復興事業は可能な限り地元住民が行うべきである。外部の業者の参入を排し、地元社会が責任を持って復興を行うのが望ましい』と。

翻って日本を顧みれば、
80年代後半から始まった『民営化』により国民の資産は著しく減少し、『規制緩和』によって労働者の権利は著しく侵害され、地場産業は衰退した。そして『社会支出削減』によって、『教育』『保育』『医療・介護』の分野までもがビジネスの標的となった。

そして昨年の東日本大震災である。震災からもうすぐ一年を迎えるというのに被災地の復興は遅々として進まず、原発事故の復旧は未だ五里霧中である。にもかかわらず時の総理は、震災復興と原発事故賠償の原資と称した消費税アップに、また米国主導のTPP(FTA)への乗車に躍起なのである。
まさに今日本は、『ショック・ドクトリン』が進行中と読めるのである。

私たち日本人は、80年代から90年代初頭にかけ、『経済は一流、政治は三流』国家と世界から揶揄されながらも、夢と希望を見いだすことができた。しかし、現在、大多数の日本人は漫然なる不安と諦めを抱えることになった。

今、私たちが一番に求めなければいけない事柄は、今生きる私たちが希望を持ち、そして生まれ来る子どもたちが夢を抱くことができる国の再建である。

今、日本人が一番に取り組まなければいけない事案は、国内の『空洞化』を阻止する事、つまり、生活の潤いを獲得できる地場産業の再生と、労働者の権利が守られる雇用の創出である。そしてそれが『持続可能な生活力』を育て、さらなる再生、新たな進歩や発展を生み出す原動力となるのである。

グローバル経済が席巻するこの地球には、もうフロンティアなどない。経済競争は有限なるパイの奪い合いでしかなく、それはまさに戦争である。

しかし、私たちはこれからの道を選択できる。
競争が生み出す進歩や発展ではなく、共存の中で『恵み』『潤い』そして『洗練』という進歩、発展を目指す道を選択することができるのである。
私たちはそのために、『真摯』に『誠実』に声を上げなければならないと思う。



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昨年末に、加古川市立図書館で『ショック・ドクトリン 上』を借りて読み、そして1月半ばに『下』を借りた。しかし、読み切ることができず、本日時間切れで返却した。
本は、第一章で『ショック・ドクトリン』誕生物語を追い
そして上・下の大部分で現代史実が如何に『ショック・ドクトリン』の実験場であったかをレポートしている。正直、魑魅魍魎のうごめく世界で、読み進めるうち何度も吐き気をもよおしそうになった。
しかし終章で、私たちのとるべき選択肢として、これまでの『戦う』か『従う』がではない第三の肢『共存』の道が示された。それは本当に救いであった。

また機会を得て、今度はしっかり熟読したい。


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