テレビ観戦を楽しみにしていた『侍ジャパンシリーズ2025 日韓戦』でしたが、第1戦で起きたプレーのアウト判定がテレビのリプレーで誤審であったことが明らかであったのに、審判団だけの協議だけでアウト判定が確定し、ゲームが再開されてしまったことに興ざめして、以後観るのを止めてしまいました。
4回表裏、両チームが3点ずつ取り合ってがぜん面白くなってきた矢先の5回表でした。韓国チームの攻撃でしたね。先頭打者が放った強烈な打球が投手に当たって大きく一塁側に跳ね、そのボールを一塁手がダイレクトキャッチしワンアウトになりました。一緒に観ていた妻が「何でアウトなん?」と訊ねてきたので「ひとりがフライボールをグラブではじいて取れなくても、側にいたもうひとりが地面に落とさずにキャッチしたらアウト、それと同じで地面に一度も付かずにキャッチしたらアウト、ファインフレーや」と解説しました。が、すぐテレビでリプレーが始まって、打球は投手に当たる寸前でマウンドの土をタッチしているのがハッキリと見て取れました。東京ドームのスクリーンにも映し出されているだろう、そう思いました。でも、審判団はこのプレー判定のために集まって協議した後、判定を変えぬままプレー続行を告げました。韓国チームの監督が出て来て抗議の姿勢を見せましたが、早々に諦めてベンチへ戻っていきました。いつもの中継なら、しつこいほどにリプレーを流すのに、それにドームのスクリーンにはこのリプレー流れてないの?と疑義の気持ちが湧き上がり、それで私は観る気持ちが失せてしまいました。
MLBのゲームなら、試合の勝敗同様に、セーフかアウトの判定や、ストライクかボールという一球の判定さえも厳しい視線が注がれます。セーフかアウトの判定に異議があれば、異議を申し出るチームの監督はリプレー検証をリクエストします。リプレー検証に該当するプレーである場合は、ニューヨークに設置されたMLBのビデオ判定チームが球場に設置された8~12台のビデオカメラが撮影したあらゆる角度からの映像を元にリプレー検証を行い、該当プレーのセーフかアウトの確定判定を行います。この確定判定には誰も異議を申し立てることはできません。また、リプレー検証に該当しないプレーの場合も、審判団自らの判断でリプレー検証を要求する場面も見受けられます。そして、来年からはストライクかボールの判定にAIと高性能カメラによる自動投球判定システムが導入されるといいます。
これらの検証システムの導入は、人間の審判員を蔑ろにするものではなく、むしろ審判員の負担を軽減ことに大いに役立つものと考えます。
人間は人間である限りバイアス(先入観や思い違い)から逃れることはできません。リプレー検証ができなかった時代では、あいまいさは、誰からも許される許容範囲にありました。むしろ人間だからと納得していたように思います。私自身、少年野球や草野球に携わったとき、審判を何度か務めた経験がありまして、先入観や思い違いなら良い方で、明らかに自己の判断(けっして悪意はなく、頑張っている選手を持ち上げようとしたりして・・・)で判定したことや、ストライクかボールの判定では(投球が速すぎたり変化しすぎたり、捕手が邪魔でそもそも死角になっていたりして)見えていないのに、大体で判定したことが多々ありました。それで揉めるなんてことは一度もありませんでしたが、私自身の中に後ろめたさみたいなものが残ったように記憶しています。
審判員は、両チームのどちらかに偏ることなく、特定の選手に偏ることなく、ゲームを進行し、プレーそのものを正確に判断して判定し、ゲームの勝敗を宣言する権限とそれに伴う責任があります。プロの審判員ともなれば何百試合、何千試合とこの仕事を続ける事になります。その間、他人にはけして吐露できない後悔の念というものも積み重ねなければならないでしょう。それに現代であれば、ゲームの中継映像が思いもよらない誤審を世間にあきらかにし、それがネットで永遠に晒し続けられるという恐怖も現実に起こり得ます。審判には最悪の時代の到来だと思います。
リプレー検証やAIによる自動判定システムは、人間のバイアスから起こる誤審や、チームや選手が審判団に対して抱く不信というものを、ゲームから取り除くことに繋がると思います。人間の眼では判断ができないスピードや画角や空間の範囲、そしてクローズアップを、AIや高性能カメラがあきらかにして、人間が判断するための正確な答えを与えてくれるのです。人間はバイアスを恐れる必要が無くなるのです。
WBCにも、ビデオ判定ルールが適用されます。その目的としては
・試合の透明性の向上を図ることで、ファンの信頼を築く。
・選手のパフォーマンスを保護するため、誤った判定を減らす。
・野球のエンターテイメント性の向上を目的として、観客の楽しみを増加させる。
以上の三つが掲げられています。
それなのに、『侍ジャパンシリーズ2025 日韓戦』では、この目的が蔑ろにされていました。このシリーズでは、日韓ともに誤審を受けています。このシリーズは本チャンではなくあくまでも強化試合だから、或いは親睦試合?だからなんてうそぶく人もいるかもしれませんが、このシリーズはWBCの一環で行われたものである限り、WBCのルールや信条に少なくとも準じなければならないと思います。日本プロ野球が使用する野球場には、MLBの野球場が備える検証のための精緻なシステムなど備えていないし、韓国プロ野球の野球場が備える高度なAIによる自動判定システムもないことを、ここで問題視するつもりなんてありません。日本のプロ野球で私たちは満足してきたし、日本の野球場の素晴らしさ、特に甲子園は世界一だと自負していますから、それに不満なんてありません。しかし、WBCが掲げる検証ルールの目的を現状の環境下でも出来うることはやり尽くすべきだと思います。
今回の誤審など、日本のチャレンジルールの環境でも正せた誤審です。『何故に、出来うる検証を行わなかったのか?』、『何故に蔑ろにしたのか?』を大いに問題視すべきだと思います。
もう一つ付け加えねばならない事があります。この誤審を下したのは、今年にMLB初の女性審判としてデビューしたジェン・パウォル氏です。ジェン・パウォル氏は、30年以上、1200試合以上のソフトボールや野球の選手としての経験や審判としての経験を積み重ね、今年ようやくMLBの舞台に立った、云うならば経験豊富なプロの審判員です。ですが今回の誤審が誤審として正されなかったことは、ジェン・パウォル氏の今後のキャリアにも、そして心に残る記憶にも、負いにならないか心配します。
また「ジェンダーバイアス(性的偏見)」に繋がらないかも心配します。ジェン・パウォル氏は、MLBにおいて女性が活躍できる場所を一つ開拓されました。日本よりもはるかに女性が、というよりも性差別が少なくて、誰もが活躍するチャンスが与えられる社会であるアメリカですが、現実には古風と云うのか、保守的と云うべきか、もっとハッキリと言えば古き良きアメリカを懐古するだけでは物足りずその時代をもう一度と「Make America Great Again」と叫ぶ白人のアメリカ男性が「やっぱり女では駄目だ」「門戸を閉めとよ」と勢い付かないか心配します。
何より心配するのは、MAGAの精神に同調する日本男子(特に地位のあるニッポンダンジ)が、まだまだ性差別が甚だしい日本社会で、あれもこれもと、まだ女性に門戸を開くのは時期尚早だと思慮深さげに発言しだしはしないかと心配します。日本人は、地位の高い人や声の大きな人に同調してしまう国民性を孕んでいますから、個々人は色々と心の中で良いことを考えていても、結局は自己を押し殺し、諦め、従ってしまう恐れがあるからです。
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