同様に、衝動を抑えられずに問題行動を起こす事案も多発し、社会問題となっています。
事件や事故、問題を起こす人には、一見して特徴を見出すことは出来ません。社会的地位のある人も無い人もいるからです。また社会の規範を指導する、あるいは守る立場の人もいるからです。
では、何故起こすのか、以下は私の想像です。
イスラエルの心理学者ダニエル・カーネマン博士は、その著書「ファスト&スロー」(原題 Tinking,Fast and Slow)で、人間の思考には、
1.ファスト思考、学習することにより思考のプロセスが頭脳の中でプログラム化され、必要に応じてそのプログラムを瞬時に発動する思考。または無意識に働く思考。
2.スロー思考、ファスト思考では対応できない熟考を必要とするときに働く思考。または意識しなければ働かない思考。
の二つがあると説明しています。
野球で表現するなら、
ファスト思考で行うのが守備。守備練習を繰り返し、頭脳と体に染み込ませる(プログラム化)ことで、状況に応じた守備動作を瞬時に選択し行動する。
スロー思考で行うのが走塁。走者として都度状況を見極めて、盗塁のタイミングを計り、盗塁を行う判断を下し行動する。
でしょうか。
ファスト思考、スロー思考、この二つの思考が正常に働くことにより、私たち人間は日常生活を支障なく過ごせると同時に、熟考が必要な難題にも対応することが出来ます。また、スロー思考は、ファスト思考が引き起こすバイアス(先入観)を修正する役割も担います。そして私たちは思考し続けることで分別を維持し続けることが出来ます。
しかし、もしもスロー思考が働かなくなったら、私たちは、熟考ができなくなる、先入観で行動してしまう、分別を維持出来なくなる、ことが考えられます。
では、スロー思考が働かなくなる場合として考えられるのはどんな場合でしょう。
思いつくのは、
1.アルコールや薬物の中毒、依存症に陥った場合
2.慢性的な疲労状態や抑圧状態に置かれた場合
3.鬱やPTSDなどの精神的な病気を発症した場合
4.サイバー依存症に陥った場合
です。
アルコールや薬物の中毒、依存症に陥るというのは、それを摂取し続けなければ正気が保てなくなるという状態です。しかし、その状態はまだ序の口で、症状が進めば終日正気を失います。そして何よりも恐ろしいのは、摂取し続けるために、どんなことでも(嘘、窃盗、売春、殺人etc)苦しむこと無く行ってしまうという事です。そしてアルコールや薬物を餌に、簡単に操られてしまうという事です。
慢性的な疲労状態や抑圧状態に置かれるというのは、外的ストレスを長時間、長期間に渡り受け続ける過酷な環境に置かれるということです。その最たるものは人間の自由も尊厳も全てを奪う強制収容所です。しかし、心の自由を奪うだけなら強制収容所は必要ありません。モラルハラスメント(精神的な嫌がらせやいじめ)やパワーハラスメント(権力や腕力による強制、嫌がらせ、いじめ)で十分です。そして慢性的な疲労状態や抑圧状態に置かれた人は、熟考することができないために自存意志を発動できずに、奴隷のように従うか、最悪、死を選んでしまいます。
鬱やPTSDなどの精神的な病気を発症した場合というのは、鬱やPTSDの発症に至った不安や恐ろしい経験が、ふとしたことで甦り、混乱やパニックを起こすために、日常生活が続けられなくなる状態です。混乱やパニックは熟考するにも支障となるために、自ら解決策を見出すことも難しいです。この状態の時、外的な強制には応じることはないですが、カウンセリングによって心の持ちように変化が生じます。この心の持ちようの変化を見誤ると敵意を募らせたり、死を選ぶ危険があります。
サイバー依存症に陥った場合ですが、
最近、「サイバー依存症」についての研究結果を報告する本が出版されました。
タイトル:「サイバー・エフェクト 子どもがネットに壊される――いまの科学が証明した子育てへの影響の真実」
(原題 The Cyber Effect: An Expert in Cyberpsychology Explains How Technology Is Shaping Our Children, Our Behavior, and Our Values--and What We Can Do About It)
2016/8 メアリー・エイケン(Mary Aiken)著
2018/4 小林啓倫和訳
この本はまだ読んだことはありませんが、紹介文の一節が衝撃的で、この本が報告する内容の深刻さを物語っていると思いました。
「スマホをやると、脳が壊れるリスクは数倍になります。という一文が、社会的に認知されるまで、どれぐらいの時間がかかるだろうか?タバコが人体に及ぼす影響が認知され、規制されるまで社会は80年を要した。スマホは何年かかるだろうか?」
私は、コンピュータやインターネットは非常に便利で有益な道具だと思っています。しかし、使い方を間違えれば、あらゆる道具は危険な道具に変わります。
一つが、オンラインゲームです。当初は、プレーヤーがインターネットを介してパソコン上のボードで対戦するという体でした。チェスや将棋などのボードゲームは、ボードの前にプレーヤーが集って対戦し楽しむものです。昔は優雅な楽しみ方がありました。手紙で棋譜を送りあい、ゆっくりと時間を掛けてゲームを楽しむというものです。
でも現在は、いつでもどこでも誰とでも、使う言語が異なっても、相手が誰だか分からなくても、インターネットを介して、パソコンやスマートフォンでテキスト会話を楽しみながらゲームが出来るようになりました。
そして、ゲームには二つの要素が加わりました。
1.矢継ぎ早に求められた選択に瞬時に応え続けることでゲームが続けられる。
2.倫理観や道徳的節度の無い世界を体験する。
この二つの要素が相まって、簡単に何度でも刺激的な成功体験が味わえるようになりました。さらに、ポイントやアイテムを購入するだけで、労せずに、さらなる刺激的な成功体験も味わえるようになりました。
しかし、この偽りの刺激的な成功体験によって私たち人間は
ゲームに依存する体質となり、また、倫理観や道徳的節度の無い先入観に支配される様になったのではないか、と考えます。
二つ目は、SNS(Social Network Service )です。SNSは、始まりは仲間内でテキスト会話を楽しんだり、手軽な連絡手段のために利用されました。仲間内ですから、上下関係も無く、目の前で会話する体で、ざっくばらんな言い回しや卑猥な会話も出来ました。
それが、いつの間にか、電話、メールに変わる第三のコミュニケーションツールとして普及し、今や職場や学校のコミュニケーションツールとして様々に利用されるようになりました。指揮系統での利用はもとより、とても繊細な相談事にも利用されるようになりました。様々な趣味嗜好のサークルやグループも生まれました。でも、始まりの頃と違うのは、メンバー内に上下関係が存在したり、メンバーが雑多でどんな人間が入り込んでいるか分からないという事です。そして、SNSはざっくばらんな言い回しによる自己主張や個人攻撃などのマウンティングが溢れるようになりました。そしてSNS利用者を慢性的な疲労状態や抑圧状態に置くようになりました。
三つ目は、Googleなどのネット検索です。現在ではキーボードでキーワードを入力するだけでなく、音声で質問することもできるようになりました。言葉が発せられれば、三歳の子供でも、言葉を発するだけで、言葉に該当するあらゆる情報を目にすることが可能です。子供は好奇心が旺盛です。日常会話の中で、大人が話していた言葉や、テレビやラジオから流れてきた言葉、文字として目にした言葉に、すぐに興味を抱きます。
一昔前であれば、興味を持ったとしても、大人が答えてくれない限り、知る術はほとんどありませんでした。そうこうしている間に別の事に興味が移れば、忘れてしまうのが常でした。でも現在は、スマートフォンに教えてと語りかけるだけで、何でもすぐに知ることが出来ます。倫理観や道徳的節度がまだ備わっていない子供にとって、何でも見てもいいんだと、何をしてもいいんだと、そういう先入観が植え付けられてしまいます。
キレるや衝動が抑えられない原因について、長々と想像を書き連ねてきました。では、どうすれば抑制できるのでしょう。
ある僧侶は、「禅や茶道などの、ゆっくりとした時間の流れの中に身を置くこと」で、キレるなどの衝動を抑制することが出来る、と話をされていました。その通りだと思いました。これをファスト思考とスロー思考で考えてみました。ファスト思考が衝動とすれば、スロー思考が抑止です。ですが、スロー思考を挟む余地がなければ、衝動が暴走します。ですから、スロー思考を挟める余地、間、を作らなければなりません。僧侶は、その間を作る習慣を唱えられたのだと思います。
そして、最近、編み出した魔法の言葉があります。
衝動が襲ってきた時、「何故に衝動が起こるのか?」と自分に問い掛けるのです。それが、余地、間となって、正常に物事を考えられる状態に精神を引き戻してくれます。
でも、この魔法は誰にでも有効でないこと、付け加えさせて頂きます。
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