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差別の天秤

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2014年12月18日木曜日

今年一番心に残った本は「小学4年生の世界平和」です。

今年出会った本の中で、一番心に残った本について書こうと思います。
その本のタイトルは
「小学4年生の世界平和」
(原題:WORLD PEACE and Other 4th-Grade Achievements)
著者:ジョン・ハンター
訳者:伊藤 真
です。

関連サイト:ジョン・ハンターの世界
http://www.ted.com/talks/john_hunter_on_the_world_peace_game?language=ja

春先、新聞の書評を見て購入しました。
ジョン・ハンターという小学校の先生が、約30年前からはじめた特別授業の記録です。
特別授業のタイトルは”ワールドピースゲーム”
それは、今世界で起こりうる深刻な問題を、一つの教室の生徒全員を当事者に仕立て上げ、問題解決を実践させる国際政治のロールプレーイングゲームです。

教室の真ん中には、エンプティ・スペースという名前のキューブ型のゲーム盤が置かれています。ゲーム盤は多階層になっていて、最下層が地底や海底、そして順に上に向かって、海面、陸地、空、宇宙と続きます。陸は四つの国に分かれていて、そこには様々な駒が置かれます。油田基地であったり、兵器であったり、そして兵士や様々な職業の人形も置かれています。なにものも動かずただ静かな空間ですが、想像力があればダイナミックに活動する地球への変貌します。
ハンター先生が、生徒に期待するものの一つが、この想像力です。

そして、生徒に配役をします。
配役は、四つの国の国主と幾つかの大臣、それからどの国にも属さぬ遊牧民族の長、国連の事務総長などです。運命を司る(岐路に立った時にコイントスで道を決める)気象の女神もいます。様々な妨害工作を企てるテロリストもいます。望めば武器商人にだってなれます。
ここでは行動力が期待されます。生徒は役になりきって行動しなければなりません。善もあれば悪もある、自分が何者かを調べて、役になりきるのです。そして、行動する。

そしてゲームの実践です。ハンター先生は、このゲームを通じて、生徒が七つの学習段階を経る様子を見守ります。

1.過大な負担に困惑する
ゲームが始まり生徒たちは興奮しているが、情報の海に呑み込まれる段階。
種々の危機の重大さ、そのどの危機にも互い(当事者全員)に密接に関連していること、そしてどうにも解決できそうに見えないといった現実がじんわり身に染みてくるにつれ、ただただ圧倒されて、困惑する。

2.失敗を犯す
こうした圧倒的な緊張の後は、大抵深い敗北感に襲われる。自分たちがすでに知っていること、すでにできることの限界を生徒たちが感じる段階。
それぞれに努力しても結果が出ない。何をしてみても無駄に思える。絶望感が漂い始める。自分の限界に直面して落胆していたりする。

3.一人一人が理解する
失敗のどん底の中で、たまたま個々に新たな解決策を見つける生徒たちがいる。自分の限界を乗り越えることを迫られて、新たな取り組み方を生み出す。
しかし、国際政治の本質上、個人の努力や成功でできることには限界があり、やがて生徒たちは、個々人よりも大きな何ものかに身を捧げなければならない事に気付く。

4.コラボレーション(共同作業)する
一人一人が自分の限界に気付いた時どうなるか?一つの可能性は、一転してコラボレーションに向かうこと。
力を合わせ、より大きな試みに参加すれば、個人の力ではまったくどうにもならない事にも解決策を見いだせるかもしれないと、生徒たちは理解し始める。

5.『ぱっ!』とひらめく
この時点で生徒たちの認識は一段高く、あるいは深くなり、唐突に「わかる」瞬間が来る。
目の前が開け、突然の驚きに襲われ、この瞬間の衝撃を雷に打たれたかのように実感する。これまであり得なかったほど可能性がはっきりと見えてくる。まさに「ユリイカ」の瞬間。
ゲームにおいて「集団的な感覚」を感じ取る瞬間だ。
今や私ひとりではなく、私たちであることを知る。私たちは、先に進むことができることを知る。

6.流れに乗る
このかけがえのない状態は、遅かれ早かれ必ず訪れる。
ある段階に来ると、生徒たちはただただ流れに乗っていく。この素晴らしい時間の間、垣根は消え去り、喜びと安らぎが教室に溢れ、不思議なことに教室全体が(そこにいる全員が)独特な持続的な状態に入る。
私たちは一人一人の個人であると同時に、何かより大きなものの一部であるとも感じている。無限の一体感だ。

7.理解を実践に変える
流れは、どれほど素晴らしいものであろうと、いつまでも持続させることは難しい。遅かれ早かれ、私たちは再び一人一人が個別の存在である状態へと戻ってしまう。
私たちにできることは、その常ならざる状態の中で得られた「理解」を、解決すべき問題に当てはめて活用する事だ。
この段階に来ると生徒たちは気付く。ワールドピースゲームを成功させる唯一の道は、集団として取り組むこと、自分という個別の存在よりも大きな何ものかの一部になること、そしてどう進むべきかを一緒に決めていくことだ。ここまでくれば、あとはゲームを勝利で終わらせるだけだ。

そして生徒たちは、自分たち(強者のエゴやテロリストの暗躍)によって、また自然災害や大事故によって引き起こされた地球の危機に、ワールドピースゲームで立ち向かうのです。
特に感銘を覚えたエピソードは、
「第6章 武器商人たちは勢力よりも正義を選択した」です。
武器商人になった二人の生徒は、ハタッと気付きます。最終兵器である核兵器を各国に売りさばけば、やがて核戦争が勃発し、核兵器によって地球が破壊され、武器を買ってくれる客がいなくなってしまうと。それで通常兵器のみ販売を続けるが、通常兵器の販売だけでは商売が立ちゆかないために、ビジネスの多角化に乗り出します。
最も貧しく資源も乏しい国で農業開発に資金を投入します。そして利益の一部をその国に還元します。
そして次に風力発電に投資をし、石油に頼らないエネルギーをその国にもたらします。
さらには産油国の砂漠地帯にソーラーパネルの工場を開設するなど、代替エネルギーの開発に投資を続け、やがて原子力発電所の廃止(テロ等により重大な危機を招かぬように)と核兵器の使用制限に向けて活動します。

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安倍晋三自民党総裁が、総選挙の大勝後に、「経済も外交・安全保障も、この道しかない」と、前内閣が打ち出した数々の法案の実行・行使を訴えていましたが、この絶対的権力を手中に収めた者の発言には、なにやら一国(一党)主義的な匂いがして不穏感を覚えます。

ハンター先生のワールドピースゲームが気付かせてくれるのは、「平和とは共同作業がもたらすもの」という不変の真理です。子供たちに、子供時代にこの不変の真理に気付かせてあげられることが、真の平和国家の持続的建設に欠かせないアプローチであると思います。
と同時に、私たち平和を標榜する日本人は、それがたとえ一国(もしくは独立、個人)として最良であったとしても、相手をおもんばかり、双方にとって最良のものをあらたに見つけ出し選び取る勇気と粘りが必要です。
先月亡くなられた高倉健さんは、中国でも大人気であったと言われます。
高倉健さんは「義理と人情を秤にかけりゃ義理が重たい男の世界」と歌われましたが、高倉健さんが演じられたのは人情に篤い日本人でした。それが世代を超え、国境を越え、愛された理由だと思います。人情とは、血の通った、心の通った思い遣りです。
正しい和訳ではないですが、
「コラボレーション=人情を通わす」
と読み替えてみてはどうでしょう。
ワールドピースゲームが、さらに「すーっ」と心に染み込んでくると思います。

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