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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2023年9月21日木曜日

忖度について

2017年にユーキャン新語・流行年間大賞に「インスタ映え」とともに選ばれた「忖度」という言葉は、中国を起源とする外来語です。

古代中国では、「忖度」という漢語は、臣下のこころ(おもわくとその正邪)を推し量るという君主の行為を意味した様です。中国の最も古い詩編といわれる「詩経」に、「忖度」が使われた詩があります。「巧言」という詩です。

※崔浩先生の「元ネタとしての『詩経』」講座というWEBサイトを見つけました。勉強になりました。

目次のページ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069

小雅 節南山之什 巧言のページ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069/episodes/16816452219010136111

この詩は、『西周国は、最後の君主となった幽王が暗愚であったために臣下の巧言や讒言に惑わされ、国は乱れ、ついには幽王は殺されて国は滅んだ。「他人有心 予忖度之」、臣下のこころを推し量ることの出来る賢い君主であれば、巧言や讒言に惑わされることなく、邪悪な者が国に蔓延ることを許さず、この地から一掃したことであろう。』という主旨の事柄が読まれている様子です。

私はこの詩を読んで、君主が利己に陥れば国を滅ぼし、利他に心を配れれば国を安寧に導くことができる、という戒めを理解しました。そして「忖度」は君主の慈愛の心の行為であると理解しました。


では、2017年以降、流行語となった日本語の「忖度」はどの様に使われているでしょうか。

権力者の政治家に忖度して、公文書を偽装し、改ざんし、廃棄した官吏からは、利己主義、あるいは保身を理解します。

最近また、「抗えぬ空気に忖度した」という用法を耳にしましたが、立場の非常に弱いものが己を守る、己の将来を守るという、厳しい言い方をすれば、利己主義、保身を理解します。

愛知淑徳大学の名誉教授である山下啓介教授が2019年に公開された「漢語の流行-忖度-」という論文を見つけました。この論文のある行に目が留まりました。

※愛知淑徳大学 知のアーカイブ リポジトリ(ASKA R)

https://aska-r.repo.nii.ac.jp/

検索欄に「忖度」と入力し検索ボタンを押すと、該当論文が表示されます。ここからPDF形式で保存された論文をダウンロードする事が出来ます。

以下、引用させて頂きます。「5.流行現象-メディアの背景」の一部分です。

『寛政異学の禁を発令した幕府の意向を忖度して藩校に朱子学者を用いる藩もあった、と。(中略)そこでとりわけ上下関係の厳しい武家では、上を忖度し下に忖度させる社会が出来上がっていたと思われる。』

『上を忖度し下に忖度させる社会という、それを忖度社会と断じ、ここで知るところは、上が下を忖度する、そして、上を忖度し、下に忖度させる社会の行いとして、忖度する行為者が儒学を実行する、実行させることで、支配構造が二重になるということである。双方向で支配者が支配する社会になることにあったと述べている。』

忠義、忠誠といえば聞こえが良いが、お上に逆らえない社会。主君に逆らえない社会、上司に逆らえない社会という封建社会で、「忖度」は上手く立ち回る為の利己主義、あるいは保身の心得であったのだと理解します。

現代の日本はまがいなりにもデモクラシーを標榜している国です。自由、人権、平等が謳われる国ですが、この「忖度」という用法には、封建社会が生み出した、空気の様な曖昧模糊で誰も責任を取らない支配構造が現在もこの国を支配し続けていることを実感してしまいます。


先日9月11日に、BSシネマズでは映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』という9.11同時多発テロで父を失った少年の、心の傷を癒やす為の、心の旅を描いた映画が放送されました。私は以前この映画の感想をこのブログに投稿しました。

※映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を観ました。

https://harimanokuni2007.blogspot.com/2013/11/blog-post_27.html

改めて映画の感想を読み返してみて、少年の母の行為に、漢語の「忖度」の意味に限りなく近い、慈愛、慈しみを感じ取りました。

こういう行為を、私たち一人一人が行えれば、今、この日本にはびこる殺伐さや息苦しさに、苦しむ多くの人々を救えるのではないかと思います。 

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