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映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2013年4月24日水曜日

ニオイの話


私、最近こそどの感覚器官も機能低下が甚だしく、どんどんと鈍感に成り下がっていますが、昔は結構、聴覚、味覚そして嗅覚が鋭敏でした。

聴覚について、
若かりし頃、健康診断の聴覚検査で、ヘッドフォンの内外を間違って装着して、検査医が送る微音量のシグナルをことごとく当てたことがありました。あれ一体なんだったのだろうと思います。

味覚について、
小さい頃から食べる所作を厳しく躾られました。
『だされたものは、どんなものでも綺麗に残さず食べること』、お茶碗にご飯粒一つでも残したものなら叱られました。物事をあまり深く考えられない、執着できない子供でしたが、いざ食べることに関しては考えました。
《早く綺麗に食べるにはどうするか?》
そしてたどり着いた答は、
《美味しく食べること》
でありました。
ですから、自分では意識はないのですが、子供の頃から食べる姿について
『美味しく食べるね』
『見ていて嬉しくなる』
と必ず言われ、そう言われるのがとても嬉しく、食べるときは、ますます張り切って姿勢を正して食べました。
それが良かったのでしょうか、食わず嫌いが全くなくて、どんな食べ物でも美味しさを導きだすことが出来る様になりました。平たく言えば、味覚が鋭敏になったのです。
今ではそれは、高価な食材、高級料理の信奉ではなく、身近な料理、普段の料理への愛情と感謝の気持ちが成したのだと思っています。

そして嗅覚、
こちらも味覚同様に、食べることが嗅覚の鋭敏さを成したのだと思っています。

さて、ニオイには好ましいニオイ(薫り)もあれば、不快なニオイ(臭い)もあります。
自然なニオイもあれば、人工的なニオイもあります。
最近、頓にテレビコマーシャルで目につくのが消臭剤です。消臭、殺菌がシューッとひとかけで行えるのです。臭いニオイを元から絶つのではなく、人工的なより強い好ましい薫りで臭いニオイを打ち消すのです。ニオイはより複雑となって居座ります。そして私たちはいよいよニオイの元に鈍感となるのです。
時に、私は掃除が苦手です。そして忙しさにかまけて、いよいよ鈍感を装い、ニオイや汚れに見ざるにおわず片付けず、を通します。そしてあまりに酷ければ、シューッで済まします。

古典落語に『蛇含草』という噺があります。その導入部、ある騒々しい男が、落ち着きのある友だちの家を訪ねて、掃除の行き届いたその家の涼しさ、気持ちよさを褒める行があります。その行を何度も聴くにつれ、感心しました。得心しました。涼しさ、心地良さ、そしてたぶん好ましい薫りというのは、すべての感覚器官が好ましいの感じたとき、本物だということをです。
そして一念発起し掃除しました。朝の内、すべての窓を開け放ち、敷物や布団を外に干し、敷居や廊下、階段を拭き掃除してから、掃き掃除に掛かります。最後に庭や玄関前の路を掃除した後、部屋の真ん中で大の字に寝転ぶと、すべての感覚器官が好ましいランプを点灯しました。風の通り道、光の差し込みに埃が揺れることがなく、静寂の中に、ひんやりとした空気、爽やかさが薫る風が流れ込みます。それはまるで山頂の細い峠道を流れる涼風の如くで、本物の好ましい薫りを手に入れた瞬間でした。

本来好ましいニオイが、不快なニオイに変わることもあります。
女性が身に纏う香水、あるときは若さを彩り、清潔さを醸しだし、時には性的な魅惑となるものですが、私はあることから、甘い香水のニオイがまったくダメになりました。
これもずいぶん昔の話ですが、超高層ビルの上階のオフィスで働いていたときのことです。
夏の盛り、一階から乗り込んだエレベーターには、各階のオフィスに向かう社員で鮨詰め状態でした。美しく化粧した女性達もたくさん乗っていました。扉が閉まり、上階への移動には少しばかり時間が掛かります。女性達の好ましい匂いは、閉鎖された空間の中で、混沌となり、汗や体臭も入り乱れて、それは濃密で重く、まるでべとつくほどの甘いニオイへと変貌し、私はそのニオイで息が出来ないくなりました。あれほどの不快に思ったニオイは後にも先にもありませんでした。
元来、香水とは、中世ヨーロッパで、見かけは着飾っても、入浴や決まった場所で排便する習慣のなかった貴族のご婦人が、体臭を消すために身に纏った香り、だということを読んだことがあります。そんな不確かな知識も相まって、甘い香水の匂いは、私にとって不快なニオイとなりました。

最後に、私の好ましい香りは、新緑の香り、そして柑橘類が発する爽やかな香りです。
天気の良い日、野に出でて、香りを楽しみたいと思います。

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