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差別の天秤

「愛を読む人」という約10年前公開の映画の、他の方が書いた映画評を読みました。 そこには私が考え及ばなかった、ハンナが隠し通した秘密についての考察が書かれいました。ハンナは文盲でした。そして、その事実を生涯隠し通しました。それは何故かです。 映画か原作小説の序章で、ハンナの...

2011年2月8日火曜日

短編小説2 『君なぁ、どないすんのや』 ~夏休み最終日に見た白昼夢~

夏休みも今日で終わってしまうという日の午後、すっかり昼寝が板についてしまった僕は、まだ手つかずの読書感想文に取りかかるため、学校の図書室で適当に選んで借りた本を読もうとしたが、読みつけない本を前にして、数頁めくったところでウトウトしてしまった。
今日は家族みんな出払っていて僕一人、外は残暑が厳しいものの、開けっ放しの窓からは、心地よいそよ風とつくつく法師の鳴き声が流れこんでいた・・・。

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「おい!君なぁ、どないすんのや」
語気の強い声が部屋の中に響いた。夢・・・?まだ、薄ボンヤリしていた。
「起きーっ!」
さらにでかい声で、眼が醒めた。
声の主は本だった。

エエッ、と僕はまだ夢の中にいる、と思った。が、本は
「夢ちゃあう、オレや、本や、ちゃんと読んでくれや」
と、それから続いて小言を言い始めた。
「君なぁ、わかってるか、もう夏休み終わりやでえぇ」
「また今度も書けず終いで、夏休みの宿題”0”点になってもええのんかあぁ」
「オレなぁ面白いでぇ、頑張れやぁ」
「おとついは7頁、昨日は5頁、今日は3頁やん」
「オレなぁ46頁から面白なんねん、でもなぁ最初からちゃんと読んでくれんと、その面白さも半減やん、オレ可哀想やん」
「なぁ頑張ろ」

怒ったりすかしたり、本の小言は全く止む気配がない。
僕は本をカバンの中にしまってやろうと本に手を伸ばした。
突如、本は開き僕の手を噛んだ、いや、挟んだのだ。
「痛たっ!」
僕は手を引っ込めた。
「オレに勝とう思とんか、100万年早いわ!」
「君みないな子、よう知っとんねん、おとなしぃにオレの言うようにせぇ~」

僕は諦めた、口答えするのを諦めた。でもやっぱり本読みは辛い・・・。
僕は本に正直に話した。すると本は、
「もう-、しゃあないなぁ」
「ほんだらオレが読んだるさかい、しっかり聴けやっ」

それからトイレ休憩を挟んで4時間、姿勢を正して本の朗読を聴いた。
さすがに本だけあって、上手に朗読する、僕は聴きながら感心した。
本は朗読の途中、何度か止まって、
「どや、ここ面白いやろ」とか
「なぁ、泣けるやろ」とか
僕の表情を見ては話しかけてきた。
4時間はあっという間に過ぎ、本は最終ページまで読み終えた。
時計の針は5時を指していた。

「さっ、ほんだら読書感想文、書こか」
と、本は僕に指図した。
でも、本の朗読があまりに上手かったので、僕はしっかり物語を堪能できていた。それで、忘れぬうちに書いてしまおうと、本に従い、原稿用紙を取り出し読書感想文を書き始めた。
驚くほどにスラスラ書けた。
書き終わると、本は
「見してみいっ」と上から目線で僕に言った。
僕は仕方なく、原稿用紙に書き上げた感想文を本が見えるように、本の前に開いて見せた。
「君なぁ、ちゃんと聴いとったんかぁ・・・」
まずイヤミを聞かされた。
「でも、まぁそこそこ書けと-やん、ほんだらこれくらいで許したるわ」
本は、開いた頁を閉じ、もう僕に喋りかける事はなかった。
静寂が訪れた。
僕は、開放された安堵感で眠ってしまった・・・。

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ぱっと眼が醒めた。時計の針は7時を指していた。
朝の7時だった。
僕は飛び起き、
「あっ、やってもたぁ」
と悔やんだ。
でも、始業式から遅刻すると恥の上塗り、覚悟を決めて身支度をし、大急ぎで机の上に散らばっているワークなどの夏休みの宿題をカバンに詰め込もうと机の上を見ると、夢と思っていた読書感想文があった。
その下に本があり、しおりが挟んであった。
僕はしおりの頁を開いた。
その頁には小さな紙片がたたんで挟んであった。
ひろげると紙片にはメモ書きで、次のように記されていた。

『できるやん、なぁ。これからはもっと自信持って、本好きになってな・・・ほなさいなら。 本より』

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