播磨の国ブログ検索

否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる戦い

『彼の自由を拒む判決です。 表現の自由を妨げる判決と言う人もいる でもそうではない。 私が闘ったのは 悪用する者からその自由を守るためです。 何でも述べる自由はあっても 嘘と説明責任の放棄だけは許されないのです。 意見は多種多様ですが 否定できない事柄があるのです...

2025年11月25日火曜日

懐古主義の話

 友だちのいちゃさん、かんちゃんと談笑していて、懐古主義の話になりました。

いちゃさんが口火を切りました「懐古主義ではないんやけど……」と。

最近、奥さんが以前は見向きもしなかった寅さん映画にはまっている、そうかうちもや寅さんと浜ちゃん映画にはまっている。なんでか、どうやら奥さんたちは、外でのギスギスした人間関係のストレスを、寅さんや浜ちゃん映画が描く在りし日の人情喜劇を見ながら癒やしている、そう理解し、同意をしました。

因みにご存じの無い方のために、寅さん映画は『男はつらいよ!』です。主人公が寅さんこと車寅次郎(演者は渥美清さん)です。そして浜ちゃん映画は『釣りバカ日誌』です。主人公が浜ちゃんこと浜崎伝助(演者は西田敏行さん)です。

そして私たち男連中はというと、最近では不適切だと世の中が許さなくなった、私たちが十代二十代の頃に憧れ、そうでありたいと願った、一本気な野風増的な生き様を懐古するのでした。

ちょっとだけ脱線しますが、先週末BSテレ東で放送された『釣りバカ日誌6』を振り返りたいと思います。

***

『釣りバカ日誌』は、大会社の平社員である浜崎伝助(以後浜ちゃん)とその大会社の社長で初老の紳士鈴木一之助(以後スーさん)の二人が織りなす人情喜劇です。二人は魚釣りでは、浜ちゃんが師匠でスーさんが弟子という立場が逆転する間柄でもあります。

さて、あるとき、スーさんの奥さんが海外旅行に出かけます。スーさんが淋しくしていると気遣った浜ちゃんは、秋が旬の岩手県釜石でのアイナメ釣りにスーさんを誘います。ちょうど釜石市の役所から市民講演会を依頼されていたスーさんは、浜ちゃんの誘いに乗って、二人はスーさんの運転するベンツで釜石を目指すことになりました。浜ちゃんは運転免許証を持っていないため後部座席を陣取ります。二人は釜石に到着してすぐ釣りを楽しみ、夕方に役所が手配したホテルに移動しました。ホテルでは役所の人たちが揃って出迎えていました。そして、後部座席から出て来た浜ちゃんを鈴木社長と勘違いしたことから、一騒動が起こります。

二人はこの勘違いを面白がって、浜ちゃんは歓迎の宴会を大いに盛り上げ、翌日の講演会では、姿をくらました鈴木社長になりすまし、市民ホールに集まった聴衆の前で、できる筈もない演目は放置して、魚釣りの漫談で聴衆を大いに楽しませます。では運転手に勘違いされたスーさんの方というと、最初は不機嫌でしたが、通されたホテルの小部屋で夕食の供をしてくれた上品な仲居の澄子さんをいたく気に入り、会話も弾み、翌日が休みであった澄子さんと民話の里と知られる遠野への観光を約束をし、翌日朝早くから浜ちゃんに置き手紙だけを残して、澄子さんと二人で観光に出かけてしまいます。

何はともあれ、釜石での行事を無事に終えた二人は、浜ちゃんの愛妻みち子さんが待つ家に帰ってきます。しかし、事の顛末を聞かされたみち子さんは、二人を叱り、スーさんが泊まっていくのを許しません。ひとり残された浜ちゃんが「講演会の謝礼、返さないといけないよね?」とみち子さんに謝礼の封筒を差し出すと、みち子さん「それはそれ、これはこれ」と、浜ちゃんが頑張ったしるしだからと懐にしまいます。浜ちゃん、あっけにとられてしまいます。

後日の出来事です。東京で働く娘の結婚式に出席するために澄子さんが東京に出て来ました。そこで娘から、仲人から新郎の列席者が多いため、釣り合いを取るために新婦側も何とか人を集めてほしいと頼まれたことを聞かされます。二人は母ひとり子ひとりの家族で親戚もなく、母の他には娘の友人が十名ほど出席を予定しているだけでした。娘には恥じ入る必要など無いと諭す澄子さんでしたが、釜石で親しくなった運転手の浜崎さんに相談を持ちかけます。澄子さんの前に現れたスーさんは、運転手の浜崎として澄子さんの相談に乗り、社長とは親しいからこちらで人を出しますと引き受けてしまいます。

そして結婚式の当日です。浜ちゃんとみち子さんは、主賓として列席し、その他、釣り仲間が社員という名目で多数列席することになりました。しかし、本物の鈴木社長と面識のある新聞記者が控え室に突然挨拶に現れた事から、澄子さんに嘘がばれてしまいます。まるで弄ばれた思いに暮れる澄子さんには、無情な披露宴が始まります。主賓の挨拶では、本物のスーさんがマイクを取って祝辞を述べることになりました。それに絶えきれずに澄子さんは会場の外に出てしまいます。それでもスーさん、若い二人に含蓄ある言葉を贈ります。そして、祝辞を述べた後、会場の外でたたずむ澄子さんとところに向かいます。

澄子さんに深く頭を下げて謝罪を述べようとするスーさんに向かって、澄子さんは運転手の浜崎さんとして、スーさんに感謝を述べて立ち去ります。

そして私は、山田洋次監督は、この澄子さんの人情の機微を描くために、この喜劇を紡いできたんやなと、そう深く実感しました。観終わって、とっても優しい気持ちになりました。

***

私たちが懐古主義に馳せるのは、きっとこう云うことだと思います。

羽目を外そうが、多少、非常識な言動や行動があっても、人を思い遣る気持ちが根底にあれば、そして、その優しさを汲むことができれば、人は優しくなれる、許し合える、そして、強くなれる。そう、私たちは十代、二十代の頃に経験してきましたし、教わってもきました。それが私たちの世代の心の根底に今も根深く残る優しさの本質なのだと思います。一種の宝物です。この宝物を、今の若い人たちに継いでいけたら、どんなに素晴らしい事かと心から思います。


0 件のコメント:

コメントを投稿