播磨の国ブログ検索

映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2016年10月31日月曜日

一枚の写真

写真の中で、若い娘さんが女踊り装束を身に纏い、真っ赤な唐傘を背中に傾げて踊っています。あでやかな色彩と初々しい生気に、思わず引き込まれてしまう写真です。

この写真にはこんな物語がありました。
市井の写真家は、この写真を祭りの写真コンテストに応募しました。
コンテストの開催者もこの写真を高く評価して、この年の最高賞である市長賞に内定しました。そして撮影者とともに写真に写っている娘さんにも連絡しました。
ところが、写真に写っている娘さんは、亡くなっていました。
いじめが原因と思われる自殺でした。それは祭りの後の数日後の出来事でした。
でも、内定の連絡をご遺族は大変喜ばれました。
しかしその後、市や観光協会から亡くなられた娘さんが写っている写真は祭り写真に相応しくないという理由から撮影者に辞退するよう申し出があり、撮影者は賞の受賞を辞退しました。
そして、コンテストの結果がホームページに掲載されました。市長賞は未選出になっていました。
ご遺族は、この結果を大変悲しまれ、撮影者からこの写真を貰い、ショーシャルネットワークで公開しました。この写真は拡散し、ご遺族への共感と亡き娘さんへの悼みが届くと同時に、市や観光協会へは全国から非難の声が集まりました。
そして市長は緊急に会見を開き、当初の受賞を見合わせた理由を述べ、あらためてご遺族に承諾を得て市長賞を贈ることを公表しました。
そして現在、青森県黒石市観光協会のホームページ、黒石よされ写真コンテストのページで、今年の市長賞に輝いたこの写真を、私達は観ることができるようになりました。

青森県黒石市観光協会 黒石よされ写真コンテスト 第23回 2016年入賞作品
http://kuroishi.or.jp/event/summer/kuroishiyosare/kuroishiyosaresnap/yosaresnapphoto2016

ご遺族に、この写真が市長賞に内定したという知らせが届いたのは、娘さんの四十九日でした。ご遺族は、この娘さんが写っている写真を初めて見られたとき、どの様に思われたのでしょうか。しばらくそのことが頭から離れませんでした。
そして渥美清さんが詠まれた一句「自殺したひととあそんでるへんな夢」に出会い、少し想像する事ができました。
娘さんの死は、ご遺族に惨い光景を焼き付けたと思います。そして、娘さんが生きていた輝かしい記憶や楽しかった思い出は心の淵に追いやられて、無念さ、悲しさがとばりとなって心を覆っていたことと思います。
でも、一枚の写真が大切な記憶や思い出を救い出してくれたのではと思います。ご遺族は、救われた思いを持たれたのではと思います。

でもこの後、賞の受賞は二転三転することになりました。結果的にこの写真に賞が贈られたとはいえ、ご遺族は再びふみにじれた思いで苦しまれたと想像します。
強い憤りを覚えます。

0 件のコメント:

コメントを投稿