播磨の国ブログ検索

映画『オッペンハイマー』を観ました。

”nearly zero(ほぼゼロ)” 先週、映画『オッペンハイマー』を観てきました。期待に違わぬ、クリストファー・ノーランの映画でした。 ノーランは、オッペンハイマーという人物の上昇と転落の物語を通じて、科学者の、もっといえば人間の、探究欲や嫉妬心にはブレーキが利かないという、...

2012年7月10日火曜日

ウォルター・アイザックソン著『スティーブ・ジョブズ』、読書感想


昨夜始まった新月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』を家族で見ました。
主人公日向徹は、年商2千億を超えるIT企業の社長で、資産200億という超リッチな独身青年。
白のTシャツに黒のベスト、スニーカー履きでオフィスを闊歩し、歯に衣着せぬ毒舌で、相手を酷くやり込める。人も家具も好みが厳しくプライベートはシンプルで、そして禅に傾倒している。そして決めセリフは『世界を変える!』
あれっ、これってジョブズじゃないか?と感心しながら見ていました。
このドラマの脚本には、昨年刊行された
ウォルター・アイザックソン著『スティーブ・ジョブズ』が多大に貢献しているのは間違いない?と思います。

長々の前振りとなりました、ゴメンなさい

先日、加古川ウェルネスパーク図書館で借りた
ウォルター・アイザックソン著『スティーブ・ジョブズ』上・下巻
昨日昼に読み終えました。

この本は、何故私はこうなったか、どのように生きたか、何を残すのか、について親密にできなかった家族に示すメッセージでした。と同時に、現在の私たちの生活が、如何にジョブズという一人の人間に影響を受けたかを示すレポートでもありました。

物語のあらすじは、すでに2005年スタンフォード大学卒業祝賀スピーチでジョブズ本人が語っています。このあらすじに沿って、彼の肉声、関係者のインタビュー、そして私的なエピソードが綴られていました。

ステーブ・ジョブズ、
彼は、若い頃からアウトサイダーのように振る舞い、そして行動を起こす時、
まず『世界を変える』、『宇宙に衝撃を与える』という途方もないビジョンを示し、また既成の敵を示して、信奉者を熱狂させます。

1984年、Macintosh発売時には
IBMをはじめとする既存コンピュータ企業群を、ジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場する悪の支配者ビックブラザーになぞらえて、
『私たち(Apple)は、コンピュータを個人が使える、もっと楽しい、もっと自由なモノとして解放します』と宣言しました。

1997年、瀕死のApple社に帰還した時は、
最初に"Think different"を打ち出し、人類の歴史の中で『世界を変えた』先人になぞらえ、
『Appleは世界を変える』と宣言しました。
それはのち、
iPod、iTunes、iPhone、iPad、iCloudで実現し、
既成のコンテンツビジネス(音楽業、映画業、出版業)の商習慣、流通システムを破壊して、ジョブズの望む新たなデジタル社会を生み出しました。
それは、Appleがデジタル社会の中核(ハブ)となって、
デジタル化されたあらゆるコンテンツ(音楽、映画、映像、書籍、アプリ等)を、Apple製品のユーザに安価に安全に供給するシステムを完全にコントロールし、
ユーザは、Apple製品から簡単にデジタルコンテンツを購入して、最高にクールに楽しめるという社会です。

ジョブズに問う者がいます。
Appleは巨大になり、傲慢そして秘密主義は相変わらず、まるでビックブラザーだと。
しかし、彼は信念を持って、次のように応えます。
『僕はユーザ体験に丸ごと責任を持ちたい。金儲けがしたいからじゃない。すごい製品を作りたいからやるんだ。。。』(本書下巻349頁からの引用)

ジョブズの信念は、Macintoshの時代から一貫しています。
『クリエイティブであること』
そして独創的で優美なフォルムを持ち、革新的な機能に溢れたApple製品は、さまざまなクリエイターの創作意欲をかき立て、新たな道具、そして制作手段となりました。
しかし、現在のデジタル社会は、ユーザをクリエイターやプレイヤーと見なさず、ヴァーチャルな感動体験を求めるだけの消費者に貶めてしまいました。
ジョブズならば、次の一手はまさに
『クリエイティブの再興』であったのではないかと思います。

ステーブ・ジョブズ、
彼が成した、彼が関与した革新に触れたいと思います。

Apple:Macintosh(安価なコンピュータ)に
GUI"Graphical User Interface"を導入しました。
モニターにデスクトップ(机上の絵)が映し出され、機能や作業を示す絵(アイコン)をマウス操作で、実行するのです。
現在ではそれは、Windowsパソコンにとどまらず、スマートフォン、iPad、スマートTVに引き継がれ、操作は感覚的になって、マニュアル(操作説明書)は不必要なものとなりました。
そしてもう一つ、
WYSIWYG"What You See Is What You Get"
モニターに映し出された、美しいフォントや画像、そしてレイアウトを、そのイメージのままプリンターに印刷する機能を実現しました。
この機能によって、15世紀にグーテンベルグが活版印刷機を発明して以来の変革を出版にもたらしました。
現在では、パソコンで作成したイラストや写真を含むドキュメントを、ネットワークを通じて直接印刷する事が可能となりました。20世紀後期まで重厚長大産業であった印刷は、IT産業へと生まれ変わったのです。

NeXTの時代、
世界初となるデジタルブックを制作しました。
オックスフォード大学が蔵書するシェークスピア全集を1枚のCDに収めたのです。
そしてもう一つは、
1991年に、世界初となるウェブブラウザーWorldWideWeb が、NeXTワークステーションで開発されました。
デジタルブック、そしてウェブブラウザーには共通する仕様があります。
"HyperText"仕様です。
本を開けば、目次があり、巻末には索引があります。そして各頁には、語彙の説明が脚注として書かれています。とても便利な仕様です。このアナログ的な"HyperText"の仕様は、すでに古代ローマ時代に確立されていました。
そして20世紀の後半、書物はデジタル化され、語彙にリンク(関連する情報へのジャンプ)が張られました。私たちは、リンクをクリック(選択して押す)するだけで、一瞬で求めたい情報にたどり着けることが可能となったのです。
現在では、この世に無数あるデジタルコンテンツがリンクによって結ばれました。
リンクだけではなく、Google等が提供する検索サービスは、推論によって情報のありかを示してもくれます。
ジョブズは、"HyperText"の先、"HyperMedia"の時代を切り開いたといえるのです。

PIXARの時代、
1995年、世界初となるコンピュータグラフィックスによる長編アニメーション"Toy Story"を完成させ、ウォルト・ディズニーが興したアニメーション産業に、コンピュータグラフィックスの時代を華々しく開きました。
PIXARには、ウォルト・ディズニーまた宮崎駿に匹敵する天才がいました、ジョン・ラセターです。
ジョブズは、天才を信奉します。そしてメセナとなって、自己資金からPIXARに5000万ドルを投入し、ついに"Toy Story"を完成させました。
PIXARの成功は、ジョブズに巨万の富をもたらすと同時に、
彼が希代の製品を作るアーティストというだけでなく、価値あるブランド(AppleそしてPIXAR)を作るアントレプレナーであることを証明したのでした。

ジョブズの推進力は何か?
最後の興味です。
ジョブズは、出生の秘話から少年の頃から、自分は『選ばれし者』と自覚します。
そして独立心と冒険心が並外れて大きく、十代の頃からボブ・ディランに傾倒し、禅に傾倒し、菜食主義に傾倒し、ドラッグに傾倒します。あらゆるものが彼にとって瞑想であった様です。
そして思い当たったのは『物事をシンプルに見る』という悟りです。
彼は巨万の富を手にしてからも、プライベートはとてもシンプルで、邸宅には、セキュリティを施していなかったとも書かれていました。
彼は十代の頃から、信念に従って身を削ってきました。それはもう行者であり、世俗に染まらない生き方でした。
そして、シンプルな生き方、シンプルな芸術に最上の美を見いだしたのでした。
そんな彼に『世界を変える』『宇宙に衝撃を与える』というビジョンが生まれます。
そして彼は『ビジョン』に対して『出来る』という回答しか求めなかったのです。
それが彼一流の『現実歪曲フィールド』思念に帰結したのだと思います。
それが彼の推進力であったと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿