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デモクラシーの国の、リーダーの有るべき姿

新型コロナウィルスのパンデミックは、私たちに一つ、とても重要な事を気づかせてくれました。それは「リーダーの有るべき姿」です。 デモクラシーを標榜する国家において 平時にリーダーに求めるものは、誰もが活躍することができる社会を作り、それが維持出来るように見守ることです。それに...

2024年9月6日金曜日

ロビタ

 ロビタという名前を思い出しました。

先日のNHKで放映された世界のドキュメンタリー『デモクラシーの闇 ハンガリーの民主主義は今』を観たからです。


ロビタは、手塚治虫が人間の業というものを想像を絶する時間スケールで描いた漫画『火の鳥』の中で登場するロボットの名前です。手塚治虫は『鉄腕アトム』でも同様にロボットを人間のために苦役を強いられる存在として描き、彼らロボットが人並みの権利を認めて貰うために活躍する(アトム)、或いは人間に戦いを挑む(プルート)、或いは絶望して死(永久停止)する(ロビタ)ドラマを描いて、少年であった私たちに見せてくれました。

今になって理解します。手塚治虫が描いた未来世界のロボットは、過去・現在における『人権を蹂躙された人々』であったことをです。ロボット(robot)は、チェコの作家カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲『Rossumovi univerzální roboti(ロッサムのユニバーサル・ロボット)』の中で、チェコ語で強制労働を意味するrobotaとスロバキア語の労働者を意味するrobotnikをもとに作り出した造語だと云われます。ロビタという名前、博識で且つ人間を深く洞察した手塚治虫が、『強制労働』『奴隷』という苦々しい思いを込めて名付けた名前ではないか、と私は想像します。


二度の世界大戦の主戦場となったヨーロッパは、その反省からヒューマニズムと差別撤廃を信条とするヨーロッパ・ユニオン(EU)を結成し、EU加盟国の国民の他のEU加盟国での行動の自由を保証し、厳しい財政事情にある加盟国はEUから復興資金が排出されることになりました。

ドキュメンタリーが追うハンガリーは、2004年に東欧諸国として初めてEUに加盟を果たした国の一つです。1989年までソ連の衛星国として共産党一党独裁国家として存在していましたが、ソ連崩壊後は民主制に移行してヨーロッパとの連携を深めてきました。そして2004年にEUに加盟を果たしてからは潤沢な復興資金を手にしてきました。

現在のハンガリー首相オルバン・ヴィクトルは、若かりし頃は民主化の闘士として名を馳せていました。しかし、2014年に二度目の首相就任を果たしたオルバンは、①自身が党首を務めるフィデス党の国民支持率が50%に満たないのに関わらず、フィデス党が擁立する議員候補が圧倒的に選挙で勝つよう選挙区を再編する。②オルバンを批判するマスメディアを次々に廃業に追い込み、オルバンに忠誠を誓うマスメディアを駆使して国民の支持を煽動する。③オルバンに批判的な最高裁判事を罷免し、オルバンの息が掛かる人物で最高裁判事を固める。等々、強権な独裁を敷いていき、遂にデモクラシーを否定する発言をするまでになりました。オルバンに批判的な野党政治家は、秘密警察に監視され、昔のように逮捕されることは今のところはないですが、マスメディアにデマを流され、煽動された国民から誹謗中傷に晒されています。民主的な高等教育を受けたリベラルを自認する人々は、政治信条、性的信条、等々の不自由さを感じて国を去りました。そしてオルバンは、息が掛かる起業家の要請に応え、残業代を支給することなく残業を命ずることができる、いわゆる『奴隷法』を国会で成立させてしまいました。


ハンガリーのオルバンは、デモクラシーを否定した国家建設を進めています。でもこれは共産主義への回帰ではありません。敢えて云うなら、ヒューマニズムを無視して労働力を搾取し、肥えに肥えたブルジョアと互恵関係にあった18世紀から19世紀の国家の形への回帰の様に思えます。

オルバン自身、民主化の闘士であったころは宗教に無関心であったというのに、ヨーロッパの古い価値観であるキリスト教を持ち出して、古い価値観に反するLGBTQを否定し、ヒューマニズを否定し、ハンガリーの仮想敵を作り出し、差別、敵意、憎悪を国民に煽動することで支持基盤を盤石にしつつあります。

そして、ウクライナへの非人道的な軍事侵攻をするロシアのプーチン大統領との関係を強め、EUの一体性や信条を揺るがす事態を招いています。


デモクラシーが崩壊すると、国家というものはどのようになっていくのか、このドキュメンタリーを見て、大いに考えさせられました。

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